第六章 葛藤

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「あなた!」「お父さん!」  レナスは、獰猛に吠える水晶の剣を力づくで止めた。  神官の妻帯はエルガーテ教では、禁じられている。  セドナに与すれば、親子ともども面倒をみよう。敵国の口車に乗ってしまったフィルを浅はかだと言い切れない。  責務と情け。レナスの中で、相反した感情が初めて生まれた。 「……詫び言は後で聞く」  レナスは無理やり剣を収めると、ローブを脱ぎ捨て軽装になった。震えるフィルを急いで立たせて、甲板から夜の海に飛び込む。  溺れそうなフィルの身体は、抱えた聖衣の箱よりはるかに重かった。だがこの男を連れて、無事に岸に戻る。  レナスは必死で考えた、血を流さずに済む方法を。
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