4人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなた!」「お父さん!」
レナスは、獰猛に吠える水晶の剣を力づくで止めた。
神官の妻帯はエルガーテ教では、禁じられている。
セドナに与すれば、親子ともども面倒をみよう。敵国の口車に乗ってしまったフィルを浅はかだと言い切れない。
責務と情け。レナスの中で、相反した感情が初めて生まれた。
「……詫び言は後で聞く」
レナスは無理やり剣を収めると、ローブを脱ぎ捨て軽装になった。震えるフィルを急いで立たせて、甲板から夜の海に飛び込む。
溺れそうなフィルの身体は、抱えた聖衣の箱よりはるかに重かった。だがこの男を連れて、無事に岸に戻る。
レナスは必死で考えた、血を流さずに済む方法を。
最初のコメントを投稿しよう!