第七章 聖衣と水晶の剣

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 剣が自然に鞘から抜けて、手に収まる。  やや濁った水晶の刃は、流したあまたの血を思い、泣いていた。フィルを斬れずにいた、レナスの想いはついに隠し切れなかった。  欲しかったのは、地位でも力でも名声でもない。  ずっと待ち望んでいた、優しい家族に囲まれる温かな幸福なのだ……。  精神が砕ける、透明な音が響いた。  夜明けとともに、ひび割れた水晶の剣が崩れていく。  レナスの頬を、一筋の涙が濡らしていた。  無双の守護剣士を支えた武器は役目を終え、女神エルガーテの元に戻ろうとしている。  掌に残されたひとかけらは、見守るような慈愛で、レナスをいつまでも包んでいた。  
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