夜のとばりで

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夜のとばりで

 高校の帰り道、学校の門からわずか80メートル程の距離を歩けば駅に着く。  僕は部活に属してない、俗に言う『帰宅部』として今日も駅までの道を行く。ただ、その距離のわずかな時間にも、ささやかなドラマは生まれるらしい。  それは、あるクラスメイトの女子が話しかけて来たことから始まった。 「ねぇ、加藤君。部活には入ってないの?」  同じクラスだけど、もともと二人とも親密に会話をする間柄でもなかった。いつもは挨拶を交わす程度だ。    ただ、彼女とは下校時の駅まで歩く時間帯はいつも一緒なことは知っていた。そんな彼女が風のように颯爽と表れて聞いてきた。 「……僕はやらないよ、そういう脇坂(わきさか)さんはどうなの?」  突然話しかけられたことにも僕は動じないように意識して答えた。 「私はちょっとね、中々難しいんだよ」  彼女から聞かれたから一応こちらからも聞き返したのに、僕の質問に彼女は明らかにうつむいて、少しムスッともしている。 「まぁ事情は人それぞれだね」 「うん……そうだね。だからこそ、君に折り入ってお願いがあるんだけど……」 「ん?」 「私と一緒に部活始めようよ! 二人だけの帰宅部を」  まったく、この人は突然何を言い出しているんだと思う。 「帰宅部って、それが部活動ってこと?」 「そう! 私と一緒に帰る」 「なんで僕と君が?」 「正直加藤君ってさ、恋愛とかほど遠い感じじゃん」 「それは、正直失礼だよね」  人を選ばずに明るくなんでも言うキャラなのは知っていたが、遠慮ない彼女に少しカチンときた僕は冷たくあしらった。 「ごめん、じょーだんだよ」  「僕は部活はやらないけど、塾があるから。悪いけど他を当たってくれる?」 「なに言ってんの? 駅までで良いんだよ! それなら良いでしょ?」 「駅って、もう着くじゃん」  そう言ったと同時に解放感がある駅前に着いた。駅の改札口に続いている階段を背にして、彼女はまた口を開いた。 「じゃあ! 今日はここまで! もう今日から部活動開始したからね」 「拒否権、棄てたわけじゃないんだけど」 「あとね、二人帰宅部を始めるにあたって、これだけ最初に言っときたいんだけど」  彼女は真面目になり僕の正面に立った。 「黙って退部するのは無しね」  彼女は、駅の後ろ側から漏れる夕日の光を背にしているので眩しい。なぜ僕を誘ったのか分からなかった。ほとんど会話もしたことなかったのに。  「あ、あと、これ私のメッセージアカウントだから後で適当にメッセ送って! じゃあね!」  矢継ぎ早にそう言って、アカウントが書かれたメモを僕に手渡すと、彼女は階段を登りきり、改札口前を素通りして反対口に降りて行った。僕は、彼女がいつも駅を使わないことも知っていた。  駅までのわずかなこの距離を、僕と帰ってどうしたいのだろう。  自然と、そして唐突に「二人帰宅部」の1日目は始まり、終わったのだった。  その日は、僕から彼女のアカウントにはメッセージは送らなかった。
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