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家に着くと2階の自分の部屋に行く。鞄をおろし、部屋着に着替えてベッドに背中を預けた。今日は塾が休みだったから早く帰れたのに
、やけに体がダルい。
部活に入らなかった代わりに、 ー代わりにと言っちゃあなんだがー お父さんとお母さんにお願いして塾に通い始めたのものの、塾がある日は憂鬱で家に帰ると疲れが出た。今日は休みなのに塾の日以上に疲れている。
くつろぎ、スマホを操作しながら、また彼女のことを思い出す。
「今日は、本当に何だったんだ」
脇坂玲美は僕を利用して、彼氏がいるとウソをついたことを埋めようとした。その彼女の見栄と傲慢な態度が、僕にはどうしても受け入れられない。
「僕を頼ってくれたのか? ……いいや、そうじゃない。きっと上手く利用された」
彼女と僕は接点が同じクラスぐらいなもの。仲が良いわけでもない、ましてや恋愛相手でもない。
でも今思えば、すぐ帰らずに理由くらいは聞くべきだった。これは少しの後悔。僕は悪くない、巻き込まれただけだと思いながらも、彼女から渡されたメモに書いてあるアカウントを確認する。
「remi……」
アカウントの最初の4文字。気づけば僕はスマホにその4文字を打ち込んでいた。
僕は思えば生まれてこのかた、小・中と必死に何かに取り組んだことは数少なかった。運動だって最初は頑張ってみるものの、割りとすぐ諦める。石の上にも3年ということわざが皮肉に聴こえるぐらい、1年はおろか、半年、いや3ヵ月すら続かない。
そうだ、いつからか諦め癖が付いた。
だから最初から挑戦しないことを増やした。取捨選択で自分がこなせるだけのことを増やしたと言ったほうが良いかもしれない。
ただ、無難に生きようと思ったのに新しい環境に変わると、『僕でも今度こそは行けるんじゃないか?』なんて思ってしまう。そう、堂々巡りで抜け出せなくなっていたんだ。それはまさに出口のない暗闇を歩き続けているかのように。
それに比べ、彼女はどうだ?
脇目も振らず、僕の気持ちも考えず、ただ自分の目標達成の為に必死になってた。事情は分からないが、そんな彼女のことを考えていると僕の内にあるプライドや気の使いようが馬鹿馬鹿しくなる。
〈加藤一也です。脇坂さん、今日はごめん。ちょっと言い過ぎました〉
僕は自分の気持ちにつられるようにスマホで文字を打ち、脇坂玲美のアカウントにメッセージを送っていた。
その後、5分も経たない内に彼女から返事が来た。
〈加藤君、メッセ送ってくれてありがとう。私の方こそ本当にごめんなさい。私、自分勝手に加藤君を巻き込んでしまいました〉
彼女の意外な反応に僕は驚いた。あの無鉄砲な感じで来ると思ってたからだ。
〈そのことで、僕は君から理由を聞きたい。なんでこんなことになったのか聞きたいから、明日の下校時待ってます〉
〈うん、分かった。じゃあまた明日〉
メッセージのやり取りのあと、しばらくぼうっとしていた。すると玄関のカギが開く音が聞こえた。
「ただいまぁ!」
「一也ただいまー!」
明るく元気な二人の声が下から聞こえてきた。
気づけば、時計の針は午後7時をまわっている。共働きの二人が帰ってきたから、これから夕飯になる。
次の瞬間、ふと、体のそこから涌き出てくるものがあった。行動を起こすなら今日だ。僕は思い立ち、おもむろに起き上がり二人の元へ向かった。
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