カルーアミルク

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 その夜、俺は川島を連れてバーへと足を運んだ。 「マスター、久し振り」 「いらっしゃい……って、あら! (ふゆ)ちゃん、久し振りじゃない! なーに? 隣の子、彼女?」  見た目は普通のバーテンダー。なのに、話す言葉は女言葉。これがこの人のいわゆる通常運転――相変わらず――だ。 「そんなんじゃないよ。大学の同級生」 「初めまして! 川島美奈です!」 「初めまして、美奈ちゃんっていうのね。カウンター空いているから、そこに並んで座って」  言われた場所に川島と座り、メニュー表を見る。 「どれにしようかな。冬弥(とうや)くんは決まった?」 「俺? じゃあ、マティーニで」 「冬ちゃんは『カクテルの王様』ね。美奈ちゃんは甘いお酒の方が好きなのかしら?」 「はい、辛い(からい)のはちょっと……私はカルーアミルクにしようかな」 「あら、女の子らしくていいわね。じゃあ、早速」  マスターがカクテルを作っている間、川島は興味津々な様子で店内を見回していた。無理もない。オカマのバーテンダーがカクテルを作っている光景もそうだが、店内の奥には……。 「ねぇ、あそこ……マイクのスタンドとドラムセットが置いてあるけど。何かのステージ?」  川島の指さす先に俺は視線を移した。 「ああ、ここ、ライブハウスも兼ねているんだよ」 「ライブハウス?!」  すると、俺たちの会話にマスターも入ってきた。 「冬ちゃん、高校の時からここに来てくれていたわよね」 「高校って……まさか未成年で飲酒?!」  川島が素っ頓狂な声を上げる。 「そうじゃねーよ。ライブで来ていたんだ。高校の時、バンド組んでいて、けど、どこもわりと使用料が高くて。先輩の伝手でここを紹介してもらった。マスターのおかげだよ。無償で場所を貸してくれるところなんてまずないから」 「冬弥くん、バンドやってたんだ……何の楽器?」 「ギター」 「ギター?! すごいなぁ」 「すごくはねーよ。弾ける奴なんて、その辺にいくらでもいるよ」 「いいじゃない。私なんて、何も楽器弾けないし」  川島はハリセンボンのように頬を膨らませた。 「はい、お待たせ。マティーニとカルーアミルクね」  置かれたグラスをゆっくり傾ける。店内の明かりに照らされ、グラスには隣にいる川島の顔が映りこんだ。 「甘くておいしい」  グラスを片手に持ち、機嫌の良い様子だ。  俺がマティーニを半分以上飲んだころ、ドアについていたベルが鳴る。
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