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泊まり込んで看病をするようになってから数ヶ月。
椿の花が咲き始めた頃には、月彦様は自力で起き上がることも困難な状態になっていた。
熱が下がらず咳き込んでは血を吐くばかりで、言っていた通り会話をするのも厳しい。
食事はとろとろにした粥を一口でも食べられたら良い方だった。
あれから更に痩せ衰えてしまい、今はもう骨と皮だけ。
横になっていても息苦しいのか、眠りは浅く日に日に隈が濃くなっていく。
どうにか楽にしてあげたい気持ちはあっても、僕には汗を拭い背中をさすることくらいしか出来ずとても無力だった。
「ッげほげほ、ごほっげほ..!」
「月彦様..失礼しますね..」
額に乗せた濡れタオルを取り替えようとしたところで、月彦様が力なくシーツを握り締め仰向けのまま酷く咳き込み喀血する。
寝返りも満足に打てず吐いたものが口の中に溜まってしまう為、窒息しないよう身体の向きを変えてあげなければならなかった。
口元に寄せた桶の中が、真っ赤に染まっていく。
「..ひと、つ..我が儘を..言って、も..良い、かな..?」
「はい、何でも言って下さい。」
「庭、が..見た、い..」
落ち着いてきて身体を仰向けに戻すと、息を切らしたまま月彦様が弱々しく口を開いた。
僕に出来ることならば、望み全て叶えてあげたい。
頷きながら答えると、まるで最期の頼みかのような顔をして言う。
支えることを前提にしても今の月彦様を長く座らせるのはあまりに負担が大きく、縁側に連れていくわけにはいかない。
どうしたら安静に見せてあげられるのかを考えると、ふと客間の存在を思い出した。
「それなら客間に布団を敷き直しましょうか。」
「..ん..」
「すぐに準備するので、少し待っていて下さい。」
客間は縁側を挟んですぐの部屋、あそこなら横になった状態のまま見せられる。
無理がないであろう方法を提案すると、ほんの少し嬉しそうに月彦様は頬を緩めた。
それを合図に僕は立ち上がり、別の布団を一組持って寝室を出た。
「あ、雪だ。」
客間の障子を開け放つと、硝子戸越しに純白を纏った庭が広がる。
いつから降っていたのか、あんまり静かで気付かなかった。
全てを覆い隠してしまう程は積もっていないことに安堵しながら、座卓を隅に移動させる。
そして一番よく見える場所を選んで布団を敷いた。
「用意が終わりました。」
「..っ、けほ..」
寝室に戻り戸を開けると、軋むような音に反応して目線がゆるりと此方を向いた。
起きているのを確認できると側に寄り、片膝を立ててしゃがみ準備が整ったことを告げる。
すると月彦様は小さく頷き、咳をしながらも僅かに微笑んだ。
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