嘘を嘘だと言えるとき

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嘘を嘘だと言えるとき

「ハサミでパパのクツヒモをきる」 「おふろのセンをぬく」 「まくらをやぶいてナカミをだす」  僕たちの遊びといえば、大人が困るいたずらを考えることだった。大人が一番困りそうなことを考えた人が優勝する。  僕たちの溜まり場は、団地の前の広場。と呼んでいたが、大人になってみると広くも何ともない共同玄関の入り口の周り。雑草を適当にむしりながら、僕たちは狭い広場で無限の空想に浸っていた。 「くるまのタイヤにノリをぬる!」  兄の翔太は、頭の上に電球を光らせながら言った。 「ぬったらどうなるの?」  これは和美。僕たち兄弟と同じで、ここの団地に住んでいる。兄と同い年。 「じめんとタイヤがくっついて、くるまがうごかなくなる」  兄はニヤリと笑った。 「たべものをソマツにしたらダメなんだよ」と和美。 「へ?」 「なに?」 「かずみ、もしかして」  兄は僕と目を合わせ、大笑いし始めた。つられて僕も笑う。和美は「なによ、ふたりして!」と怒っていて、まだ気づいていないらしい。
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