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ある程度の年になると、知人の不幸も増えてくるし、葬式にでる機会も増えてくる。
そんなわけで、私はある教室に通い始めた。
そこは、文章の書き方を教えてくれる場所。
それもただの文章ではない。
弔辞の書き方教室だ。
ただでさえ、高齢化社会はとどまるところを知らない。
急に近しい知人が亡くなって、弔辞を読むことを頼まれて、困ってしまうことがあるかもしれない。
そんな転ばぬ先の杖として、私はその教室に通いはじめたというわけだ。
弔辞教室なんてものが世の中に存在していることすら、学のない主婦の私はまったく知らなかった。
けれど、近所に偶然見つけたその教室に通いはじめてみると、それがなかなかどうしてためになる。
それに、講師の先生がちょっとかっこいい。
弔辞という内容には少し意外なほど、若いお兄さんだ。
長い黒髪が目までかかり、細身の体にいつも黒いシャツを着て、少し陰のある雰囲気をしている。
でもそんな雰囲気とは裏腹に、彼は皆にやさしい口調で丁寧に教えてくれるのだ。
まずは、弔辞の形式的なことから。
葬式の進行を妨げないよう、数分で終わる文にしましょう。
まずは故人に呼びかけ、それからその人の思い出にまつわるエピソードを入れましょう。
週一回のペースで、私たち生徒はそうやって少しずつ学んでいく。
「じゃあそろそろ、実際に練習として弔辞を書いてみましょうね」
今日も小さなその教室に、お兄さん先生のやさしい声が響く。
「誰でも良いですから、どなたか皆さんの身の回りの、とてもお世話になった方が亡くなったと仮定して書いてみてください」
「ポイントは」と先生は穏やかな声で続ける。
「当然ご承知のことと思いますが、亡くなった方のことは決して悪く言ってはいけません。ご遺族の手前ですし、『こんなにも良い方だったんです』という風に書いてくださいね」
私たちはそろってうなずく。
「亡くなった方にまつわるポイントや特徴を、できるだけ具体的に思い出してください。そこをしっかりと褒めるのです。そうすれば、良い弔辞になりますから」
そうか、その人だけにまつわるポイントを具体的にか……
そうして私たち生徒は従順に、手元の練習用紙をおっかなびっくり、ボールペンのインクで埋めてゆくのだった。
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