あの人を忘れるためのたったひとつの方法

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 笹倉探偵事務所までは、車でほんの三十分くらいだった。  人生で初めての探偵事務所のドアを前にして、緊張でチャイムに延ばす手が震える。  ピンポンと軽快な音が響き、開いたドアの向こうには三十代後半くらいのスーツ姿の男性がいた。  広告の写真より少しだけ年上に見える彼が、探偵の笹倉尚人さん本人だった。  やはり私のかつての恋人に雰囲気が似ている。あの頃のあの人はもっとずっと若かったけれど。  事務所の中は意外に明るい。笹倉さんに案内されて、パーテーションで区切られた応接コーナーのソファーに座った。 「予約してくださった柴岡(しばおか)千穂(ちほ)さんですね?」 「はい。よろしくお願いします」 「ご依頼は昔の恋人を探してほしいとのことですが」 「はい」 「ではまずこちらにご記入ください。分かるところだけでいいですので」  ソファーに座ってアンケート用紙を埋めていく。  私の住所、氏名、年齢。ここら辺はしっかりと免許証で確認もされる。依頼者の秘密は守られるとはいえ、この事務所の中で私の情報は丸裸だと思うと少し怯む。  でもせっかく来たのだから。  そしてあの人の名前。出会った場所。知っている限りのあの人の情報を書いて、笹倉さんにアンケート用紙を手渡した。 「依頼したい内容は……十年前に付き合っていた恋人が、当時あなたの他に付き合っていた女性がいたかどうかですか? 現在の状況ではなく?」 「ええ」 「では詳しくお話を聞かせてください」 「はい。私とあの人は当時使っていたSNSで知り合いました」
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