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次に笹倉さんに会ったのは、二週間もあとのことだった。
いろいろ報告したいことがあるからと、いつものカフェではなく駅で落ち合った。人ごみの中から私の顔を見付けて歩いてくる笹倉さんに、いつかの夢のことをふと思い出す。それから二人で並んで歩いたけれど、もちろん手を繋ぐことはない。
笹倉さんの案内で、個室のある落ち着いた雰囲気の喫茶店に入った。
「報告が遅くなってすみません」
「いえ、大丈夫です」
「ここ、知り合いの店なんです。いい感じでしょう?」
「そうですね。大人の雰囲気です」
「今日は僕のおごりなので、好きなの注文してもいいですよ」
初めてのお店だからさんざん迷って、結局いつものようにブレンドコーヒーを注文した。
「本当に苦いのが好きなんですね。あ、僕はカフェモカ、クリーム多めで!」
店員さんが笑いながら下がっていった。
あまり待たされずにすぐに飲み物が来て、そのあとは個室に二人きり。
甘そうな飲み物を一口だけ飲んでから、笹倉さんは手帳を取り出した。
「今日はまず、ご依頼の件について報告しようと思います」
「ということは……」
「はい。津田駿さんを見付けることができました」
「そう……ですか」
「まず、彼の名前についてですが、戸籍上は違う名前になっています」
「えっ」
「彼のお母様が離婚と再婚をされていて、そのたびに彼も姓が変わっています。津田はお母様の旧姓ですが、それが気に入ってたのか普段は津田姓を名乗ることが多かったようです」
「そんなことが……」
「彼の本名についてはさほど重要ではありませんので、ここでは津田さんとしてお話しますね」
「はい」
あの人の名前が偽名かと疑ったこともあった。そんな理由だったとは思いもしなかったから、それだけでも笹倉さんに調査を依頼してよかった。
「十年前、彼に柴岡さん以外の恋人がいたかどうかですが」
「……」
息を止めて、彼の口元を見つめた。
「僕が調べた限りでは、津田さんに恋人らしき人はいませんでした」
「え……本当に?」
「家にいる時はほとんど義妹さんの看病をしていたようです。当時高校生だった義妹さんは体が弱く、津田さんはとてもよく世話を焼いていたとご近所さんも感心していました。時々仕事以外で出かけていたうちの多くは柴岡さんとのデートの日に一致していましたから、津田さんの恋人は柴岡さんだけだったと僕は思います」
笹倉さんは手帳を仕舞って、今度は私の目を覗き込んだ。
「ここから先は僕の余計な調査です。だからもし柴岡さんが聞きたくないなら話しません。もしかしたら聞きたくない話かもしれません」
ずっとにこやかだった彼が真剣な目をしたから、私も真面目にうなずいた。
「聞きます」
「そうですか」
笹倉さんはちょっと困ったような顔をして口を閉じた。ほんのわずかな間、個室が静まり返る。
それから意を決したように話し始めた。
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