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目の前の珠李が、とっておきのいたずらが成功した子供のように笑っている。
「起きてたの?」
「うん。えへへ……ごめんね」
「もう、この子は……」
動揺しているのを悟られないように努めて穏やかに答えるけど、内心は気が気でない。
どこから意識があったのだろう? 頬に爪を立てたところから? 首を絞めようとしたところから? それとも、全部?
直接本人に確かめられるはずもなく、私は曖昧に微笑んでごまかすしか出来ない。どうか珠李に嫌われませんようにと願いながら。
「ねえ、神奈ちゃん」
甘ったるい声で私の名前を呼びながら、珠李はじゃれつくように私の胴に纏わりつく。出来る限り互いの身体の触れ合う面積を増やそうとするみたいに。
「うん?」
「ううん。なんでもないよ。呼んでみただけ」
言って、珠李はコロコロと笑い、私の胸元に自分の顔をグリグリと押し付けた。
最近はこうやって私の部屋に来て泣きじゃくる頻度も増えてきて、ほぼ毎日だ。前以上に、暑苦しいくらいに身体を密着させようとしてくる。彼女の中の何かが限界に達していて、壊れそうなのかもしれない。少し煩わしい。
でも、彼女がこうなったのは自分のせいだという罪悪感もある。私だって人の子だ。今更、彼女をぞんざいに扱うことは気が引ける。出来っこない。
私なんかに見初められたことには同情する。
「神奈ちゃん」
不意に私の胸元から顔を離して、珠李は私の顔を見上げた。
一瞬、何故だか分からないが、背中がゾクリと震えた。
「どうしたの?」
「……わたし、全部わかってるから」
小さいけれど、周りの雑音に負けないよく通る声。ハッと息が止まりそうになった。脳が機能停止したみたいに、ブラックアウトした。鼓動が早く、大きくなっていく。
全部って、どこからどこまで? 私が珠李に向ける感情も、仕向けたことも、罪も全部知っていて、その上で私の部屋に来ているってこと?
それとも、ただのでまかせ、冗談? 私の気を引きたいだけ?
分からない。分からない。
急に珠李が正体不明の存在に思えてしまう。頭の悪い子だと思っていた珠李が、理解できなくなった。
「……何が?」
「うふふ。なあんでも。神奈ちゃんのことなら分かるんだから。だって、わたしは神奈ちゃんのことが、だぁい好きだから」
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