永遠の日

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 リビングから聞こえてくる、聞き覚えのあるTVの音。  そっと開けた先、暗闇の中に浮かびあがる映像。  幸せそうなあの日の二人。  やっぱりまた見てた、結婚式の動画。  眠っていて欲しかったな、私がシャワーを浴びて戻ってくる前に。  ソファーの上、膝を抱え鼻を啜りあげている夫が、私の気配に気づいて振り返る。  泣き濡れた瞳でじっと私を見つめた後で。 「来て、萌香」  伸ばされた手を握り返したら、強く引き寄せられ抱きすくめられた。  TVからは、未来に夢と希望を馳せた明るい私が「誓います」と声を弾ませていた。  あの日の自分が切なくて、虚しさで映像を止めてしまいたくなる。 「さっきは、ごめんね」  弱々しく(かぶり)を振る私を、強く抱きしめる夫。 「まさか、あたるなんて思ってなくて。本当にごめんね、痛かったよね」  まだ半分以上残っていた飲みかけのビールを、怒りに任せて私に投げつけた夫。  避け切れずに頬にあたったその痛み。  拍子に溢れかえったビールが私の身体に降り注いだ。  カランカランと床に転がったアルミ缶を拾い上げキッチンに置き、無言で浴室へと向かったのはもう30分も前のことだというのに。  シャワーを浴びた今もまだ部屋中に、アルコールの臭いが充満しているみたいだ。
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