63人が本棚に入れています
本棚に追加
今夜のケンカの原因は、また私の仕事について。
辞めて欲しい、辞めたくない。
どうして辞めないの? ねえ、どうして?!
結婚前に約束していた全てが少しずつ嘘に変わっていく中で、私にとって仕事は最後の砦だった。
自分というものを確立できる最後の場所だった。
「辞めたくない」
真一文字に唇を結んだ私に。
「どうして、僕の言うことを聞いてくれないんだよ! 僕が萌香を養うって言ってるじゃないか!!」
怒鳴り散らし、八つ当たりのように持っていたビール缶を投げつけたのだった。
そうしてから、ようやく冷静さを取り戻すのだ。
それからお約束のように、夫は必ず結婚式の動画を見る。
愛の誓いをもう一度確認して自己嫌悪で泣き崩れ、私を抱きしめて必ずこう言う。
「愛してる、萌香。君がいなきゃ、僕が何もできないのを知っているだろ?」
「ごめんね、君を傷つけてばかりで」
「もう二度としない。許して、萌香」
判を付いたようなお決まりの台詞。
この人は『二度と』という言葉の意味を知っているのだろうか?
知ってて使っているのならば頭の弱い人間か、自分に都合の悪いことは忘れてしまう主義の質の悪い人間のどちらかだ。
夫の場合は後者だと思う。
つい一週間前にも聞いたばかりの『二度としない』は、今年に入ってもう何度目だろうか。
最初のコメントを投稿しよう!