うそつき せびり虫

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  *迷惑な訪問者 「ピンポン!」  昼食を食べ過ぎてうとうとしていた私は、玄関のチャイム音に起こされた。きっと彼氏だろう。私はいつものように鍵を開けてリビングに戻った。 少しして玄関ドアが開く音に続き鍵が閉まる音が聞こえた。 「入るよ」  と言ったその声に、私は違和感を覚え玄関に行くと…そこに立っていたのは下屑矢(しもくずや)。私の知り合い男性史上最悪のクズ男だった。 「突然何しに来たの?」 「仕事で近くにいたから寄ってみた」 「寄らないで!君が来られる部屋じゃない!」 「まだ怒ってんの?ちゃんとしただろ?」 「そういう問題じゃない。根本的に間違えてる。君の感覚は変!帰って!」  私は屑矢の訪問を嫌った。  これには訳がある。      *私と屑矢  1年近く前まで私達は半年間友達以上恋人未満のような関係だった。でも、その短期間で私はこの男に何度もうそをつかれた。  この男は正真正銘のうそつきだ。    私、原立(はらたち)ルリと下屑矢との出会いは1年前。行きつけのレストランで何度か偶然会ううちに笑顔を交わすようになった。  そして、 「もうそろそろ一緒にメシ食べましょうよ」  屑矢のこの一言で一気に親しくなった。 「ルリさん俺より何歳下かな~?俺34」 「まさか…私より4歳も下?」  ずいぶんオジサンに見える。 「え~!上~?4歳も上?」 「お店で叫ばないで」 「だって、うそでしょ?って感じっすよ」  この話し方で年下だと実感した。  「ルリさん、彼氏は?」 「いませんけど…」 「じゃあ明日休みなんでゆっくり会いましょう」 「ん~でも…」 「ダーツ行きましょうよ!俺上手いんですよ」 「ダーツ!やってみたかったの!行きましょう!」  こうして私達は遊びの約束をした。    翌日…。屑矢が指定したレストランは屑矢に不似合いな高級店だった。         屑矢は最初が肝心と言わんばかりに自分のプライベートと恋愛論を語り始めた。 「俺は普通に商業高校を卒業しています。バツイチで子どもは小学生ふたりです。性格の不一致で俺から離婚を申し出て1年かかりました。慰謝料を払うためにダブルワークしているんです。あと2年あります。俺、今婚活中でルリさんを素敵だと思って見ています。女性らしい人が好きなんです」 「え、私4歳も上」 「年齢は関係ないっしょ」 「ん~。でも小さい子どもがふたりいて1年で離婚が決着したなんて早い。性格の不一致が原因ならもっと長引くイメージだけど…性格が淡泊なの?」 「俺、友達の紹介でデキ婚なんで好きになる前にデキてしまって~。子どもは可愛いですけどね~。俺、恋愛も結婚も友達な感じが好きなんです。友達夫婦、楽しくて良いじゃないですか~」 「友達夫婦ね~。だったら友達で良いんじゃない?わざわざ夫婦にならなくても」 「それは不安定でしょ。ふたりでいて楽しいと思いませんか?俺は楽しいです」 「まあ、そうね~」 「ところでここの支払いどうしますか?」 「え?どうって?割り勘で良いんじゃない?」 「割り勘?にしますか…?」  わざわざ聞くなんてすごい違和感。男性は自分が払う気なら 「俺が…」  と言って先に席を立つ。 「私が払うよ」と言うのを期待しているような言い方だ。    ダーツは楽しい!ムキになる屑矢は若い。 「ルリさんは何業の人ですか?大卒?」 「私はY大卒でアパレル。でも今求職中」 「え、おしゃれな業界の人!」  ダーツを終えると私達は都心を散歩した。思いのほか楽しくて、自然と手を繋いでいた。  屑矢からの猛プッシュは続き、私達は付き合うことなった。初の年下。しかも4歳も。引け目を感じて私が年齢のことを言うと 「たまたま先に生まれただけだろ。歳のことは俺にもどうにもできないから気にされても困るし、気にしないで欲しい」  な~んて、カッコイイことを言ってくれちゃう!年下に心をくすぐられる。      *屑矢の本性  しかし親しくなった屑矢は図々しくなった。  私の家電が古くなったから買い替えるというと屑矢はついて来た。 「高い炊飯ジャー買って俺に美味しいご飯食べさせて」「冷蔵庫は大きいのにして」「洗濯機は最新の大きい方が良い」  と、お店のスタッフの前で自分の要望ばかりを言う。  値段を確認しに来たスタッフが、屑矢に伝票を見せると 「あ、彼女一人ぐらしなんですよ。全部彼女が買うんで伝票は彼女に渡して。じゃあ俺は予定があるからこれで…」  そう言ってどこかへ飛んで行った。  スタッフがあっ気に取られて言う。 「す、すみません。ご主人かと思って…」 「威張ってるからあちこちで間違えられます。4歳も年下だから調子に乗ってるのかも」 「え!彼そんなに年下なんですか?驚きです」 「ね~。オジサンっぽいですよね~家電は全部私が選んだ安いものにします」  私は自分の予算内で購入した。  あんなに『手伝うから』と言っていたのに何もしないうそつき屑矢に苛立つ。  数日後、全く手伝わなかったくせに 「メシが食べたい」  と、屑矢がうちに来た。  しかし、その日から屑矢のとんでもない甘えが始まった。 「ねえ、ルリちゃん1万円貸してよ」 「やだ!私お金は貸さない主義よ。金の切れ目が縁の切れ目だと思ってる」 「わかってるけどさ~ホント困ってるし、来週の休みは給料日だから返しに来るよ。約束するから」 「絶対ヤダ」 「何だよ。返すって言ってんじゃん。貸せよ!」  凄味をきかされて私は怖くなった。 「わかったわよ。じゃあ、本当に返しに来てよ。言っとくけど、私が怒ったら怖いからね」 「へ~怒れるんだ。見てみたいな~」  屑矢は私を甘く見ている発言をした。  私は屑矢が年下で慰謝料を払いダブルワークをしているので可哀想な気もちになった。それに…今、密室で怖い。 「私にとって1万円は大きいの。私は今求職中なんだし、ちゃんと返して。約束よ」 「返しますよ~約束しますよ~」  私が1万円を差し出すと、屑矢は嬉しそうな顔で自分の財布にさっさとしまった。  こうして、私は禁断の『金貸し』をしてしまった。  そして翌週、屑矢は約束どおりうちに来た。が…。 「1万円返して」 「え、マジで?」 「当たり前!約束でしょ?返しに来たんじゃないの?」 「え~、もうちょっと貸しておいてよ」 「はあ?何甘えたこと言ってるの?返して」 「ホントに?」 「ホントよ!うそついたの?怒るよ!」  私が苛立った顔で言うと、屑矢は 「は~い」  と、言って、自分の財布から1万円を出して寄越した。 「あのね、借りたお金はちゃんと袋に入れて返すの。大人でしょ?常識を知りなさい」 「わかったよ~たまに怖いときあるんだよな」  ブサイクにすねた屑矢は何事もなかったようにテレビを見始めた。  私は親か!イライラする~。  屑矢はごはんをたくさん食べると、さっさと帰って行った。  私達は、安くて美味しいお店に頻繁に出かけるようになった。笑いながらの会話は楽しいけれど、私が自分の分をオーダーすると、 「大盛で」  と、ひと言足し 「多いだろ?」  と言っては、私の皿から料理を大量に取っていく。そんなことして何が楽しいのだろう。私の知人男性達は『食べな食べな』と言うけれど、私が年上だから?自分が年下だから?屑矢は『寄こせ寄こせ』だ。  しかも多く注文して多く食べたのに少なく払う。私に全額を払わせる時さえある。いくらなんでも甘え過ぎだ。  こんな屑矢のケチで図々しい感覚がイヤでたまらない。  屑矢は態度は大き過ぎるのに、懐は小さ過ぎる。私の知らない人種だ。  親しくなって4ヶ月。屑矢のうそつきなクズぶりが露わになった。  嫌なメッセージが届いた。 〈お金貸して。1万円で良いから〉 〈やだ。仕事が決まってないから貸せない。しかも『で良いから』って何よ〉 〈1万円だけで良いってことだよ。貯金を貸してくれれば良いだろ〉 〈1万円は私には大金よ。他を当たって〉 〈ルリさんにしか頼めない〉 〈知らない。私達出会ったばかりよ?前まで借りてた人に借りれば?〉 〈できない〉 〈じゃあ、元カノとか元妻とかに甘えたら?私に頼むのは恥ずかしいと思って!〉 〈頼むよ。それがないと生活できない。給料が差し押さえになるんだ〉 〈知らない〉 〈ホントにお願い。給料で返す。来週取りに来てくれて良いから今晩待ち合わせして。頼むよ〉 〈ほんとに!絶対返してよ。返してくれなかったら大騒ぎするからね。覚悟してよ〉 〈わかった。助かります〉  あいつは屑だ、そして私も甘い。と、思いながら『慰謝料』が頭をよぎり貸すことにしてしまった。  電車に乗って待ち合わせ場所に行くと、屑矢はタバコを吸ってまっていた。タバコも高級品になっているのに止めようとしない、自炊もしない、屑がお金を貸せって…ホント今まで出会ったことがないタイプのダメ男だ。  私が屑矢に近づくと屑矢はニヤリと笑った。 「メシ何食べる?何ごちそうしてくれるの?」  ムッとした私は何も言わない。 「冗談だよ。割り勘で良いよ」 「当たり前。その辺の安いところ」  そして私はお店で屑矢に1万円貸した。  満足そうな表情を見せる屑矢に 「あのね、借りるときは『すみません、大切に使います。とか、交通費分ごちそうします』とか言うの。この間も常識を重んじなさい、と言ったばかりよ。見た目と中身と行動が伴ってなくておかしいからちゃんとしな」 「わかったよ」 「来週取りに行くからね。うそつかないでよ」 「うん、良いよ。返すもん!」    と言ったくせに…。  翌週屑矢はうそをつき更に屑ぶりを見せる。  私は出かける前に屑矢にメッセージした。 〈今日、返してもらいに行くよ〉 〈わかりました〉  そして、私は屑矢が起きた頃を見計らい、屑矢のマンションに行った。かなり古いタイプのマンションで、ドアの上部が擦りガラスになっていて部屋の電気がついているかいないかがわかるし、ドアポストも大きいので開ければ在宅か不在かがだいたいわかる。  ドア前に立つと嫌な予感がした。  とりあえずベルを鳴らしてみる。  留守のようだ。  電話をしてもメッセージを送っても応答なし。 「やられた!うそつかれた!逃げられた!」  私は『やっぱり』と『がっかり』の気もちを抱きしめて屑矢のマンションを後にした。  少し歩くとスマホの着信音が鳴った。屑矢だ。 「どこにいるの?」 「近く。私、今日行くって言ったよね。何で留守なの?」 「詳しい時間言ってなかったじゃん」 「どこにいるの?」 「近く。これから帰るよ」 「わかった、これから行くよ」  私は踵(きびす)を返し屑矢のマンションに向かった。  玄関ドアのカギが開いている。いつもの様にドアをノックして中に入ると、電気もつけずに屑矢は床に座っていた。『演技中か…』 「ルリさん座って。話がある」 「で?なに?返せないんでしょ?」 「うん。何で知ってるの?」 「雰囲気。で?ギャンブル?女?」 「え~、どっちでもないよ。ただ生活費がないだけ」 「先週は返せるから今日取りに来るように言ったんでしょ?商業高校出身で計算は得意だって自慢していたのにどうしたの?とにかく返して。今日は給料日よ」 「返しても良いよ。返すよ。でも、その代わり、今すぐまた借りなきゃならないよ」 「はあ。それでもいいよ。とにかく返すという誠意を見せてよ」 「え~、頼むよ。あと一週間貸して。そしたらバイト代入るから」 「なるほどね~人にうそをつく奴ってこんな感じなんだね~初体験!客観的に見ると滑稽(こっけい)だね。悪い奴が下手(したて)に出てしつこく頼むの。わざわざ弱そうな相手を選んでね。良いよ。貸してアゲル。必ず返させるから見てて」 「うん、俺だって返すよ。2万円になったら返せなくなるけど、1万円は返せるから」 「私からお金で逃げようとしてもムダだからね。貸したことないし、第一女からお金かりるってダメ男の代表だと思っているから」 「返すって言ってるだろ!」 「楽しみにしてるわ。じゃあ帰る」  私は怒り心頭、屑矢のマンションを出た。    私の怒りを見たくせに、数日後またお金の要求があった。今回も突然で仕事先まで持って来いという。 〈ダメ。嫌。甘えすぎ。ふざけないで〉  いつものように断ると 〈毎月お願いしているわけじゃないでしょう?〉  と、図々しくがっかりする内容のメッセージが届いた。 〈当たり前。それならとっくに離れてる。これで2万円だよ。払えないんじゃないの?〉  屑矢は私に愛されていると思っているのだろうか…だとしたらひどいうぬぼれだ。  既読スルーしていたけれど脅迫めいたメールに変わる。好奇心旺盛な私は、うそを重ね、人にお金せびる奴が本当に返せるのか試したくなった。 〈わかった貸す。いつ返してくれるの?〉 〈次の給料〉 〈絶対に返してよ〉 私が待ち合わせ場所に行くと、ちょうど屑矢が電車から降りてきた。  そして私がお金を差し出すと屑矢はむしり取るように受け取り、走ってアルバイトに向かった。さすがの私もがっかりした。せめて『ありがとう。ごめん』くらいの言葉は欲しかった。  そして、それから4日後しか経っていないのに… 〈頼む1万円貸してくれ。月末のボーナスで払うよ〉 と、さらにお金をせびるメッセージがきた。 〈とりあえず、どういうことなのか話しを聞くよ。それからだね〉  私は冷静に待ち合わせ場所に向かった。  2万円も3万円も一緒だ。きっちり返させるんだから。  合流すると屑矢は言った。 「本当に生活費と交通費が必要なんだ」 「うそ!定期でしょ!」 「だけど仕事で動くときは後で清算なんだ。だから厳しくて」 「でも前の月の分が返って来るでしょ?」 「そうだけど今月すごくかかっちゃったんだ」 「だったら会社に言えば?あのさ~、私、君の奥さんでも母でも恋人でもないの。だからどうして貸さなきゃならないのかがわからないの」 「それは一番近くにいる人だからだよ」 「近くない!電車で来てるし、関係性も近くない!」 「ギャンブル?」 「ギャンブルね~」  当たったらしい。  ギャンブルか…私の身近にギャンブラーはいない。 「前に2万円になったら返せない、って言ったよね?今日貸したら3万円よ。絶対返せないじゃん」 「だからボーナスで返すよ」 「もし返せなかったら?」 「だって返すもん。そんなこと考えられない」 「ふ~ん。案外口が上手いのね。言っておくけど君が思う程、私は甘くないから」 「そんなの知ってるよ」 「そういうことじゃなくて…まあ言っても君には聞こえないわね。君、うそつきだし」 「優しい女で良かったよ」 「うん、よく言われる。でもね、優しさにもいろいろあるの。言っているのも今のうちよ。今回を最後に貸すわ。ボーナスできっちり返してもらうから」 「いいよ。どうせうちも会社も知ってるんだ。逃げも隠れもしないよ」 「そうね。わかったわ。貸してアゲル!」  私はさらに1万円、屑矢に貸してやった。トータル3万円だ。  本当に女にお金を借りる男がいるんだ。 『返す返す詐欺』だ。自分がこんな男に関わるなんて、男を見る目がないらしい。だから男性は古い知人の方が安心だ。    もうすぐ屑矢のボーナス。私は屑矢にメッセージを送った。 〈いつどこで貸したお金を受け取りましょうか?〉 〈振り込みにして下さい。口座番号と銀行名を教えて下さい〉  こう来たか~。私は大きく落胆した。きっと振り込まずこのまま私を切るつもりだろう。  案の定、約束の日を過ぎても屑矢からお金が振り込まれることはなかった。電話もメッセージもメールも全てブロックされ、全く連絡が取れない。  私はあっさり裏切られたのだ。  だけど、許さないし、諦めない。 「ブロックするのはお金を返してからにしなさい!君の思うとおりにはいかないことに気づかせてアゲル。私で人生勉強をしなさい!それが私の優しさよ」 私は呟き、ほくそ笑む。      *知人のアドバイス  私はとても優秀な知人に屑矢のことを相談した。 〈年下の男性にお金を貸して逃げらました。取り戻したいのですが何かいい方法は?〉 〈そんな屑男と関りをもった君が悪い。勉強代だと思って諦めた方が良い。危険だ〉 〈嫌です。絶対に返して欲しいんです〉 〈じゃあ『内容証明』というのがあるからそれを使ったら?相手に会わなくていいし効果もあるから良いと思う。検索すると簡単に詳細がわかるから調べてごらん」 「わかりました。調べてみます。ありがとうございます」 お金と食べ物にしか興味のない屑矢といたから知識が一つ増えたことが嬉しい。    知人から知識を得た私は行動を起こした。  内容証明の文書作成の仕方を学ぶと、 『いつ、どこで、誰と、誰が、何をした。どんな約束が守られなかったか、どんな損害を受けたか、今後どうするか。などを、詳細に綴り、支払い方法のプランも書き添えて、3日以内に連絡が取れなければ訴える』という内容の文書を作成し、屑矢のマンションに向かった。  何度か行ったことのあるマンションなのに、恐ろしく怖い場所に感じた。ドアの前に立つと、恐怖で足がすくんだ。電気はついていないように見えるがテレビが付いているように見えなくもない。もしかしたら寝ているかもしれない。ドアポストに書類を入れようと思ったけれど気がついて出て来たら…と思うと身震いがした。怖くて何もできない。私は立ち去った。  最後に会ってから2ヶ月。彼女がいるとか身辺が変化していてもおかしくない。   部屋に行くのはもう止めることにした。  そして、メール、メッセージ、ショートメッセージなどに内容証明を送った。  すると、翌日あっさり屑矢からメッセージが来た。 〈すみません。メール読みました。連絡できなかった理由は『スマホの破損によるもの』でした〉  誰が見てもこれは『うそ』壊れても代替機を貸してくれることくらい私でも知っているし、昨日内容証明のメールを送って今日スマホが直るなんてタイムリーすぎる。 〈で、どうやって返してくれますか?〉 〈携帯の修理に結構かかったので、そちらの内容証明の案にあった毎月5千円ずつの分割払いでお返しします〉 〈分かりました。遅れることのないように、しっかり払ってください〉 私は返信した。  知人に報告すると、 〈こういうクズなうそつき男には厳しい態度を取って甘い顔を見せないこと〉  と、アドバイスされたので、屑矢が入金を怠った時には請求するメッセージを送った。  そして、半年かけてようやくは返金された。  屑矢は私の人生初の金銭トラブルを招いた男なのだ。   *小っちゃい男  こんなうそを重ねたのに、数ヶ月後 〈他に誰かいるのかな?遊びに行こうかな〉  と、何事もなかったかのようなメッセージがきて呆れはてた。 結局『返したから許される』と思っているのだ。こちらがどれだけ苦しんだかなんて少しも考えられないのだろう。 〈誰もいません。ひとりぐらしですが来ないで下さい。迷惑です〉  私は拒絶した。     こんなことをされた上で、今日の屑矢の突然の訪問に怒っているのだ。 「さっさと帰って」 「好きなんだ」 「大嫌い」 「借りた金は返した」 「翌月の給料で返すとうそついた。ボーナスで返すってうそついた。ちゃんと振込むってうそついた。うそつきは嫌い」 「メシ食わせてよ」 「君に与えるエサはない」 「じゃあ、その辺のメシ屋でゴチしてよゴチ。そんなに高いもんじゃなくて良いよ」 「いい加減にして!ふざけないで!」 「何だよ怖いな!」 「あのね、私の倍の体重のオジサン面した男がゴチしてって言わないで。男子大学生でさえ言わない。後学のために言っておく。女性に向かってゴチしてなんてダサいのよ。かっこ悪過ぎる。あんたほどカッコ悪い男知らないから!」 「なんだよ!冗談で言ったんだよ。もういい!わかったよ!冗談がわかる女を探すからもういい!」 「冗談なわけないでしょ!これまで食事代を散々せびられて、お金もって行ってあげても当然顔。交通費も払わない!うそつきの詐欺師は大っ嫌い!ダサすぎ!出て行って!甘えないで!クズ男!」 「冗談なのに…怖いよ。怒らないでよ」  屑矢の顔は一瞬にして泣き顔になった。  そして一段と太ったでかい図体(ずうたい)と態度を小っちゃくして出て行った。  うそつき金せびり虫の本性は、うんと小っちゃい屑男だった。
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