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三学期に入った初日、光紀は雅成に軽い口調で言った。
「おれ、彼女出来た」
「はぁ?」
一瞬、静寂が生まれた。その静寂の後、雅成はぱちぱちぱちと拍手をし、光紀の肩を強めにばんばんばんと叩いた。
「そうかぁ、お前にもついに春が来たか…… 幼馴染としては嬉しいぞ」
雅成は心から親友に彼女が出来て嬉しいと言わんばかりの満面の笑みを見せた。
光紀も「ありがとう」と言いたげに微笑み返す。
「もう、おれに構う必要ないからな。彼女さんと一緒にいてやれよ」
「あ…… ああ…… わかった」
そして迎えた高校生活最後の年、二人の関係は疎遠になった。学校で会って話す程度の関係に落ち着き、一緒に遊ぶことは無くなったのである。お互いに「彼女と遊びに行った」と言う類の話はするのだが、光紀の話すそれは全てが嘘。彼女なぞ存在しないのに彼女がいると嘘を吐き、行ってもいないデートの話や、惚気話で盛り上がるのである。
雅成も光紀に彼女がいると思っているのか積極的に遊びに誘うことはなくなった。時折、誘うことがあっても光紀の方から「彼女と遊びに行くから」と断るのである、勿論それは光紀の吐く嘘。
一度嘘を吐くと嘘を重ねて誤魔化さなくてはいけない。嘘と言うのは連鎖していくもので、存在しない彼女の名前を考え、誕生日も設定をし、行ったこともないデートの内容までをも考えなくてはいけない。偏に「彼女が出来た」と言う嘘を嘘で塗り固めるための嘘である。
嘘を吐くにはコツがある。嘘の中に真実を織り交ぜるのだ、その逆もまた然りである。
例えば、彼女と旅行に行った嘘を吐くなら、家族で旅行に行った真実を、さも彼女と行ったかのように嘯く。旅行に行ったという実体験があるために真実味をつけることが出来る。嘘は「彼女の存在」だけであるために真実味のある話が出来る。
相手が嘘を暴く目的でしつこく追究でもされない限りはバレることはない。
光紀はこれで一年近く雅成を騙しきったのだった。
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