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雅成は一切悪びれない。その態度に光紀は激昂し机を思い切り叩きつけて怒りを露わにした。周りの客が一斉に二人の座る席を注視する。
「怒るよ!」
「そうしたらさ、お前に彼女が出来たって言うじゃないか。ショックだったんだぜ? ずっと俺たち二人でやってきたのに、いきなり訳わからないぽっと出の女に取られたみたいでさ。俺たちの関係は何だったの? って感じじゃん?」
「おれだってお前に彼女が出来たって聞いて同じこと思ったんだぞ」
「あれ? 俺のことそんなに思ってくれてた? 数多い友達の内の一人ぐらいじゃなかったの? 俺はただ付き合いが長いだけで」
「馬鹿野郎! おれにはお前しかいないんだぞ!」
周りの客が一斉に「えぇ……」と血の気が引いた顔をした後、一斉にファミレスを後にした。二人のことを同性愛者同士の痴話喧嘩だと考え、避難したのである。確かに会話内容だけを拾うと痴話喧嘩にしか聞こえない。ファミレスの店員もどこか訝しげな顔をしながら二人の席を眺めている。ただ、一人の女性店員はニヤニヤとしながら二人を眺め「尊い……」と小声で呟いていた。
「親友からこういう風に言って貰えて嬉しいよ。でも、お前彼女出来たんだからこの優しさをこれからは彼女にだな……」
「おれだって彼女いねぇよ! これまでの彼女との話は全部嘘だよ!! 馬鹿野郎!」
驚天動地であった。まさか俺と同じことをするとは信じられない! 雅成は「やっぱりこいつは俺の親友だ」と安堵し、含み笑顔を浮かべながら切り返す。
「え? お前もエア彼女で俺騙してたの? ありえねぇよ! 俺に嘘吐いて平気なの?」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。この嘘吐き」と、光紀は言い返した。
お互いに嘘を吐きあっていた。それでも切れないし、嫌いになれない二人はお互いのことが「大好き」なのは間違いない事実。そこに嘘はない。
おわり
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