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Air彼女をきみに
二人の男があった。名前は光紀(みつき)と雅成(まさなり)、二人は幼い頃からの親友でいつも一緒。幼稚園も小学校も中学校も高校も一緒、今年で付き合いは17年目となる。その17年目になって、雅成は急に光紀と疎遠になった。どこかに遊びに行こうと誘っても、それとなく断るのである。
「おれ、なんか悪いことしたかな?」と、思い光紀は雅成を問い詰めた。すると、雅成は観念したように、光紀にとって青天の霹靂ともいえる告白をするのであった。
「俺、彼女出来た」
「はぁ?」
「彼女出来たんだよ」
光紀と雅成はこの17年、女子とは縁遠い人生を送っていた。同性愛の気があるわけではないが、ただ単に幼稚園と小学校と中学校では女子と触れ合うことなくいつも二人で遊び、高校も男子校で女子と触れ合う機会は皆無なだけである。それだけに雅成の言うこれを光紀は信じることが出来ずに驚くのであった。
「彼女? どこの女だよ」
「隣町の子」
「どうやって知り合ったんだよ」
「狩りゲーのオフ会。その子一人じゃ無理な狩り手伝ったら『会いませんか』ってダイレクトメール来たから会いに行った。そうしたら意気投合しちゃって」
「おいおい、どんな女だよ。写真見せろよ」
「いや、彼女レイヤー(コスプレイヤー)さんでさ、写真NGなんだよ」
「レイヤーだったら逆に写真撮らしてくれるもんだろ?」
「無断アップロードが嫌なんだってさ、だから俺とプライベートの写真も駄目なんだってさ」
「レイヤーさんも大変なんだな。で、名前は?」
「はぁ? 何でお前にあいつの名前教えなきゃ駄目なの?」
「おいおい、親友の彼女なんだから紹介してくれよ」
「仕方ねぇな。菜々だよ」
「へー、菜々ちゃんか。可愛い名前だな」
「だろ? これからデートなんだ。じゃあな」
光紀はその場に一人ポツンと立ち、涙を流し悔しがった。これまでずっと一緒だったのに! 雅成との付き合いは俺の方が遥かに長いのに! それをいきなりぽっと出の女に掻っ攫われたような感を覚えた。悔しさと喪失感が入り混じった複雑な感情と言うべきだろうか。
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