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全台の発電機の修理が終わり、ようやく正常に電気が送れるようになってから、高坂の仕事は終わった。
報告書を書き、次のチームに引き継ぐと、疲れが一気に押し寄せる。
疲れだけではない。
悲しさも、悔しさも。
本来であれば、燃料との接触をしていた高坂は処罰を受けるべきであったが、主任のせめてもの気遣いで今日のところは見逃してくれていた。
高坂はやるせ無い気持ちでため息を吐く。
辞めさせられないにしても、このままこの会社にいて働き続けられるだろうか。
発電機室に行くと、すでにアカリとシノブは運び出されていた後で、紅林も後処理に追われていたので、何も出来ることがなく、高坂は黙って会社を後にした。
他の燃料に合わせる顔もないし、自分にはそんな資格がない。
燃料との接触が禁止されている理由が少し理解できた気がした。
ー
ー
照りつける日差しと強い風。
そして煩い声。
外に出ると今日も相変わらず人発反対派のデモ活動が行われていた。
『ジンハツはんたい!ジンハツはんたい!ジンハツはんたい!ジンハツはんたい!ジンハツはんたい!ジンハツはんたい!ジンハツはんたい!』
何も知らない人間達が集って声を荒げているその光景は、
この時の高坂には耳障りでしかなかった。
「おい、社員が出てきたぞ!」
油断していた高坂はデモ隊の1人に見つかってしまい、あっという間に囲まれてしまった。
高坂は、思わず、はぁ、とため息を吐く。
'疲れてるのに'という気持ちだったが、振り払って逃げる方が面倒だと思った。
「どういう気持ちで人を燃料にして発電してんだ?日本電力さんよ。」
うるさい。
「人の心がねえのか?。」
うるさいうるさい。
「鬼だ。鬼。お前らは人じゃねえ。」
うるさいうるさいうるさい。
「人から生み出した電気なんていらねぇんだよ。」
うるさいうるさいうるさいうるさい。
「こんな会社、潰れちまえばいいんだよ。」
浴びせられる罵声に、高坂は今にも言い返してしまいそうで、下唇を噛んで必死に気持ちを抑えた。
何にもわかっていないくせに。
なんで僕がこんな気持ちにならなければいけない。
「…申し訳…ありません。」
高坂の口から出たその言葉は、目の前にいる人間に向けたものではなく、燃料として人生を絶たれたアカリとシノブへ向けたものだった。
天を仰いだあと目線を逸らした先には、
大きな電光掲示板。
何両にも繋がる電車。
歩きスマホをする人間。
昼間にも関わらず点灯し続ける外灯。
今日も東京は何も知らずに大量の電気を浪費していた。
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