第3章 甘やかしたい婚約者

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 リオの記憶の物語では断罪後の話はなかったから、そこからは好きに過ごすことが出来るはずなのだ。 「そっか。じゃあ気合を入れて準備しないとね」  そう言って、トーマ様は立ち上がった。  そして、見上げるわたくしの頭の上に手を乗せて、愛おしそうに髪を撫でた。  ――っ!?いきなり……わたくしはお人形……。  でもそんな表情、まるでトーマ様がわたくしを好きみたいだ。  そんなことあるはずないのに。 「寂しいけど、しょうがないね。今はまだここまで」  離れ難い、これが最後だと思うと悲しみが溢れてくる。  だけど、そんなことなど知らないトーマ様は帰ってパーティーの準備をするよと離れていった。  わたくしは伯爵令嬢なのよ。きちんと感情のコントロールをしなければいけない。悲しみはここで悟られてはいけない。  わたくしは最後まで顔に笑顔を貼り付けて、馬車で帰るトーマ様を見送った。 「……ありがとうございました。さようなら……」  きっと、優しいトーマ様は今日が最後だから。本人には届かなくても伝えたい。  小さくなる馬車に向かって、周りの使用人には聞こえないようにわたくしは小さく呟いた。
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