536人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「そろそろ行かないとなんだけど、その前に――レティ、誕生日おめでとう」
トーマ様はそう言って、わたくしの髪が崩れないように配慮しながら前髪に軽く触れるキスを落とした。
「……っ!?」
どんな状況!?
頭の理解が追いつかないまま、わたくしはされるがままにエスコートされて会場の前に向かってしまう。
――おかしい。絶対にこの状況はおかしい。
リオの記憶の中ではこんな状況無かった。今頃トーマ様はサラ様をエスコートして会場に入っているはずだ。
なのになぜわたくしをエスコートしているの?
だけど、そんなことを言えるはずもなく……というかいう間もなく、会場前にいる騎士が扉を開けてしまった。
「王太子のトーマ様、ウィルド侯爵家のレティシア様がいらっしゃいました」
そのアナウンスに、会場内はワッと盛り上がる。
煌びやかな会場だけれど、私の正面には誰一人として居ない。人が半分に別れて道を作っている。
不安な顔も戸惑っている顔もしてはダメ。わたくしはまだ侯爵家の娘なのだから、完璧でなくてはいけない。
「さぁレティ……いくよ?」
トーマ様の腕を取り、わたくしは戸惑いを隠して顔に淑女の笑顔を貼り付けた。
きちんと授業を受けていてよかった……。
最初のコメントを投稿しよう!