第1章 わたくしの記憶

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「いくら侯爵家でも、許されるはずありませんわね」  わざと聞こえるように言ってくるどこかのご婦人たち。  だれも……わたくしの味方はいらっしゃらないのね。  その事実に落胆したわたくしは、近寄ってきた騎士達に抵抗することも無く捕まる。 「トーマ様、わたくしはずっとお慕いしておりましたわ……」  最後にそう呟いて、促されるがままに会場から退出した。  こうして、主役のはずのわたくしは、愛する人から見放され、断罪されたのだった――。  そう……、このリオの記憶通りだと、わたくしレティシア・ウィルドは悪役令嬢ということになる。  そして18歳の誕生日パーティーで婚約破棄と国外追放。  記憶の中の本の登場人物が、この世界に実在している人と同じ名前なので、たぶんこれは本当に起こってしまうことなのだろう。  侯爵令嬢としての教育を受けてきたわたくしは、全ての貴族の名前を覚えている。その中でも同年代の方ともなれば、どんなに格下の家の方でもだ。  男爵令嬢にサラ・アルテニー様がいらっしゃることも知っている。  それにわたくしの婚約者はトーマ・ハルディオ様だ。  ここまで合っていたら、リオの記憶を信じるしかないだろう。
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