6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら? もうこんな時間」
薪を切り落としにいった夫が帰ってこない。心配した女は、様子を見に行くことにした。
「どこかでケガでもしてなきゃいいけど」
女は目の前に現れた泉の前で足を止める。
「まさか、ここに落ちちゃったわけじゃないでしょうね」
そっと水面を覗き込んでみる。
「きゃっ!」女はのけぞった。
ぽこぽこと音をたてはじめた泉。やがて、泉の中から、ひとりの美しい女神が現れた。
しかも、女神の両側には、タイプは違うが端正な顔立ちの男がふたり。うっとり見つめてしまうほどの男前たちだ。
「あなたのご主人は、うっかり足を滑らせてしまい、この泉に落ちてしまいました。ちなみに、あなたのご主人は、高身長で涼しげな目元が特徴のこの男か、それとも高収入でワイルドなルックスのこの男、どちらでしょうか?」
女神は両サイドの男たちを交互に指差した。
女の脳裏に、愛嬌はあるが決して男前とは呼べない木こりの夫の顔が浮かぶ。無骨にも木こりの仕事に精を出す姿も。
少し考えたのち、女は答えた。
「わたしの夫は、ただの冴えない木こりです」
女神はニッコリと微笑んだ。
「あなたは正直者ですね。そんなあなたには、ふたりの男たちを差し上げましょう」
男たちは池から飛び出し、女を挟むようにして立つと、そっと優しく腕を絡めた。
味わったことのない優越感に、高揚する女。
夫の素朴な笑顔が思い浮かんだが、それを欲という炎で焼き払った。
「ごめんなさないね」
ポツリ呟くと、女は男たちの顔を見上げ照れ笑い。そのまま森の奥へと姿を消した。
最初のコメントを投稿しよう!