金の斧と銀の斧と嘘

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「あら? もうこんな時間」  (たきぎ)を切り落としにいった夫が帰ってこない。心配した女は、様子を見に行くことにした。 「どこかでケガでもしてなきゃいいけど」  女は目の前に現れた泉の前で足を止める。 「まさか、ここに落ちちゃったわけじゃないでしょうね」  そっと水面を覗き込んでみる。 「きゃっ!」女はのけぞった。  ぽこぽこと音をたてはじめた泉。やがて、泉の中から、ひとりの美しい女神が現れた。  しかも、女神の両側には、タイプは違うが端正な顔立ちの男がふたり。うっとり見つめてしまうほどの男前たちだ。 「あなたのご主人は、うっかり足を滑らせてしまい、この泉に落ちてしまいました。ちなみに、あなたのご主人は、高身長で涼しげな目元が特徴のこの男か、それとも高収入でワイルドなルックスのこの男、どちらでしょうか?」  女神は両サイドの男たちを交互に指差した。  女の脳裏に、愛嬌はあるが決して男前とは呼べない木こりの夫の顔が浮かぶ。無骨にも木こりの仕事に精を出す姿も。  少し考えたのち、女は答えた。 「わたしの夫は、ただの冴えない木こりです」  女神はニッコリと微笑んだ。 「あなたは正直者ですね。そんなあなたには、ふたりの男たちを差し上げましょう」  男たちは池から飛び出し、女を挟むようにして立つと、そっと優しく腕を絡めた。  味わったことのない優越感に、高揚する女。  夫の素朴な笑顔が思い浮かんだが、それを欲という炎で焼き払った。 「ごめんなさないね」  ポツリ呟くと、女は男たちの顔を見上げ照れ笑い。そのまま森の奥へと姿を消した。
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