二十二

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二十二

 そんな環境のなかで、僕たちは政子さんの運転するワンボックスカーで、某県にある心霊スポットに向かいました。  参加したのは、政子さん、すずさん、ミコちゃん、マーク、清水さん、そして僕です。前回の怪談会出席メンバーのうち、三田さんは参加を見送りました。  理由としては、やはりそういう冷やかし気分で心霊スポットに行くのは賛成できない、というものだったのですが、もうひとつ、公務員の三田さんは、職場の上司に、 「役所から感染者を出すわけには絶対にいかない。もしうちに感染者が出て、市民の皆さんに感染されるということになったら、国賠訴訟をされかねない。だから、プライベートの時間も、極力感染を避ける行動をするように。もし何かあった場合は、それなりの処遇が為される」と脅迫まがいに言われたそうです。  まさか感染したからと言って懲戒解雇になるわけではないでしょうが、諭旨免職くらいはあってもおかしくない雰囲気だという話でした。もうすぐ定年退職になる三田さんにとっては、プライベートの時間を自由に過ごすよりも、その自由を犠牲にして満額の退職金をもらうことのほうが重要という判断のようでした。 「しばらくは、仕事と食料の買い出し以外には外出しませんので」三田さんは政子さんにそう告げたそうです。  マークは会社勤めですが、特に会社からプライベートへの干渉はなかったそうです。  アイドルとして活動しているミコちゃんは、プロデューサーの意向ですべてのイベントがキャンセルされ、歌やダンスのレッスンも中止になっていたため、少し暇な日々を過ごしている、と言っていました。心霊スポットへの参加にあまり乗り気でなかったミコちゃんが、一転して参加を選んだのも、そういう理由からだったのでしょう。ミコちゃんは行く先の観光案内みたいな本を持っていて、その地域の名産品を食べられることを楽しみにしていたようです。  出発したのは午後一時くらいだったのですが、政子さんの運転するワンボックスカーは午後一時半には高速道路に入りました。日曜日でしたが、しきりに「自粛」という言葉が言われているせいか、高速道路を走る車はかなり少なかったと思います。  そして県境を超えて目的とする某県に入ったころですが、政子さんがハンドルを握りながら、 「次のパーキングエリアで少し休憩するね」と言いました。  三分も経たないうちにパーキングエリアを示す緑の看板が見えてきて、ワンボックスカーはそちらへ通じる道へ車線変更しました。  広い駐車場に、トレイと小型の売店と自動販売機が並んでいるだけの簡素な空間でした。高速道路を走る車はまばらでしたが、そこには二十台を超えるほどの普通車及び軽自動車と、五台の大型トラックと高速バスが停車していました。 「とりあえず、十五分を目安に休憩ね。トイレ行きたい人はちゃんと行っといてね」  政子さんがそう言うと、僕も含めてみんな車外へ出ました。  すずさんは自販機のすぐ横の灰皿を置いてある喫煙コーナーに向かいました。ミコちゃんはトイレに行きました。清水さんはワンボックスカーの近くで両手を伸ばして腰を曲げてストレッチをした後、マークと政子さんと会話をしていました。  僕はそれほどもよおしていたわけではないのですが、念のためトイレで用を足したあと、自販機でブラックの缶コーヒーを買って飲んでいました。  すると、たばこを吸い終えたすずさんが自販機にやってきて、砂糖入りの缶コーヒーを買いました。 「やっぱり、いいわね。外に出るのって。わたし車持ってないから、あんまり遠くに出る機会ないのよね」コーヒーを一口飲んで、すずさんがそう言いました。  僕はすずさんが車を持っていないというのは意外でした。いつも、いかにも高そうなコートを着ているし、バッグも僕でも知っているような高級ブランド品を持っています。 「車、お持ちじゃないんですか?」と僕は何気なく訊いてみました。 「というか、免許がないのよ。この歳になって教習所に通うのも恥ずかしいし、ね」  その答えに僕は納得しました。 「三郎くんは、持ってるの?」 「高校三年の進路が決まった後、親にほぼ強引に教習所に行かされました。と言っても、免許取った後に運転したのは父親の車を二回だけだから、ペーパードライバーですね。まさか学生の身で車なんて維持できないし」 「そっか。じゃあいつか、レンタカーでも借りてどっか遊びに連れてってよ。……って、三郎くん彼女いるんだったっけ?」 「ええ、いちおう」  当然、恋人の藍には心霊スポットに行くなどということは伏せてあります。 「彼女、同い年なの?」 「いえ、ふたつ年上です」 「へえ。三郎くん、年上が好き? もしかして、わたしにもチャンス有り? と言っても、わたしなんかじゃ上すぎるわよね」すずさんはそう言って、肩をすくめるように上げました。 「いえ、すずさんずいぶんお若く見えますよ。まだ二十代前半くらいに」 「まあ、うれしい。お世辞が上手なのね」  すずさんは低めの身長の割りには少しだけ脂肪の付いた体型をしています。顔が少し丸みを帯びていて、それが童顔のような印象を持たせます。短いスカートから伸びている白い脚はいかにも柔らかそうで、なんとも言えない色気を振りまいています。 「すずさんは、ドライブに連れてってくれる彼氏とかはいないんですか?」  僕のその問いにすずさんは目を細くして笑いながら、 「いるわけないでしょ。わたし風俗嬢やってるのよ。もう十年以上、彼氏なんかいないわよ」そう言いました。
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