1.明けない夜はない

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1.明けない夜はない

崖上は静かだった。 ──よく昔はここら辺に来てたな.......。 風通りや木のざわめきが確かに聞こえる崖上に、彼、知良(しら) 星樹(しょうき)は一人座っていた。 ──みんなと遊んで、みんなと遊んだり、みんなとPLAY(遊ぶ)。 「あはは.......あの頃は遊ぶこと以外考えてなかったな」 つぶやいた声は小さく、崖上近くの森の中に溶け込んでいく、暗がりで顔は懐かしそうに微かな笑顔を作っている。 「楽しかった、なんでもキラキラ新鮮に見えて、みんなでバカやってる時は特に.......」 先程よりも小さな声が知良(しら)の口から出る、顔は微かな笑顔が残っているものの、どこか悲しさを感じさせる。 「また遊びたい.......」 不意に出たであろう声、それはつぶやきと言うにはあまりにも大きな声で、知良(しら)の耳まで聞こえるものだろう。 ──なんで、あんなに仲良かったのに.......。 「寛太(かんた)海未(うみ)真姫(まき)──。生叶(せいか)」 誰かの名前、呼んだあと少ししてから知良(しら)は周りを見渡す。 正面には暗い街が、背後には風で揺れる森がある。だが、そこには誰一人としていない。 知良(しら)の表情はだんだん暗くなっていく、だが。 「.......」 ──みんな.......オレ、最近色々あったんだ。 勢いよく、知良(しら)の足が立ち上がる。 知良(しら)は先程とは打って変わって万遍の笑みを作る、誰もいないのに、元気に振舞おうとしているように見える姿、それは空を指さす。 「みんな、どこかで星空見てるか.......? 昔はよく見えてた星空だけどさ、都市化が進んで最近見えなくなってたんだ」 ときどき詰まる静かな声。 「だけどさ、最近また見えるようになったんだ.......街中じゃ相変わらず見えないけど、この崖上からだとよく見えるんだ、みんなと居たときみたいに.......!」 知良(しら)の言葉はその後も止まらない、喋らない時間が無いくらいに話し続ける。 「寛太(かんた)! オレ最近、上司に怒られちまった.......! 昔はよく一緒に先生に怒られたよな!」 「海未(うみ)! お前はなんでイケメンなんだよ! 今はモデルやってるらしいじゃないか! 寛太(かんた)から聞いたぞ、 直接教えて欲しかった.......!」 「真姫(まき)! あんま接点なかったけど、良い奴だった! ありがとう!」 声が枯れはじめ、ガラガラな声になりだす。 それでも一呼吸、大きく息を吸って。 「生叶(せいか)! 最近、会いに行ったけど昔よりも静かだから悲しかったぞ.......! 昔みたいに笑ってくれよ!」 寂しそうに、悔しそうに、申し訳なさそうに、悲しそうに。 それぞれに向けた言葉をいい終える。 ──あとは、オレがどうするか.......。 「星樹(しょうき)、自分にいうには恥ずかしいが、結構、頑張ったんじゃないか.......? オレにしては十分過ぎたよ」 自分自身に言い聞かせる言葉、恥ずかしいと言いつつも、顔は真顔で口に出した言葉。 ──多分オレ狂ってる.......。 満足したとも、疲れきったともとれる汗まみれの顔、その下で一通の音が鳴る。 [ピロリンッ] 知良(しら)のポケットに入ったスマートフォンが鳴った、月明かりと星のみが照らす崖上に、新たにスマートフォンの光も加わる。 [避難し終わったよ]21:35 [あんたはどこおる?]21:35 [良かった、多分もうすぐそっちに着くよ]既読 21:36 [分かった、はよ来なよ危ないけぇ]21:36 [大丈夫すぐ着くから、ありがとう]既読 21:36 ──そろそろ.......行こうかな。 手にスマートフォンを持ったまま、崖のギリギリまで足で向かう。 ──多分じゃなくて、本当に狂ってるかな.......。 知良(しら)が崖下を覗いた瞬間だった、風が強く吹きだし、その瞬間、知良(しら)の身体はバランスを崩し下に落ちる。 ──あれ、落ちてる.......? ドンドン加速していく風が、確かに落ちていることを教えてくれる。 ──早い.......コースター。 時期に目を開けるのもキツい程のスピードになり、全身が重力のままに落ちる。 ──バンジー.......。 知良(しら)は意識を保ち続けているようだった。 手元のスマートフォンを離さず、持ち続けている。 [ピロリン] 「.......」 ──スマホ.......スマホ? スマートフォンの通知音が落下している最中に鳴った。そんな音が響いた。 だが鳴ったとしても、知良(しら)の身体は重力のせいで上手く動かないようである。 一応動いてはいるのに、でも画面が見えない。 ──あー、死ぬ。 落ち始めてから、結構たった。 諦めがついたように自身で動くのもやめた。 崖上からは見えなかった地面が、見えるくらいに近づいている。 ──走馬灯.......って、どうやったら見れるんだろう。 [ホッシー、ひとつだけセーセのワガママきいてくれる……?] ──あ、これって.......? [ねぇ知ってる.......? 昨日、行方不明だった染色(しいろ)さんの娘さん] [遺体で.......見つかったらしいわよ] ──すごい.......。 [本当に? 物騒.......うちの子も心配だわ……] ──へー.......。 [女の子はどんな子でした?] ──都合良いんだな.......。 [ホッシーは、優しいんだね。] ──走馬灯って.......。 「.......」 ──あと、なんか.......。 [ありがとう] ──思ったより.......。 今も落ちていく身体。 ──いいもんじゃないな......。 「.......」 ドンッ。 肉の塊が落ちる音が地べたに響いた。
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