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僕たちはいつもそんな調子だった。
夏芽はいつも明るい子で、クラスでも人気があったという。僕はそこまで集団で目立つタイプではなかったから、夏芽と人間的には似ていなかったはずだけど、兄妹としての相性はきっとよかった。
夏芽は折に触れて、僕の根暗をからかった。
「お兄ちゃんは陰キャだからねぇ♫」
「あのなぁ、世の中皆が夏芽だったら日本は回っていかないんだよ。僕みたいな奴は立派な下支えになってるの」
「じゃあお兄ちゃんはあれだね、あれ『天の下の力こぶ』みたいなやつだ♫」
「『縁の下の力持ち』な」
夏芽は知らないうちに大人びて、気付けばランドセルも背負っていない歳になっていた。
僕は親戚のおばちゃんがやたら『また大きくなったね』と言う感覚を理解していくような感覚で、夏芽を可愛がっていた。
「お兄ちゃん、これ誕生日プレゼント♫」
「これは………お守り?」
「そ♫大学受験、もうすぐでしょ?将来わたしを養うために頑張ってよね♫」
「『天の下の力こぶ』だからな」
「それ言わないでって言ったよね♩」
夏芽はいつの間にか綺麗になって、気付けば幾人もの男子生徒に言い寄られるような女の子になっていた。
それは兄として誇らしくて、夏芽の幸せな将来を思えば喜ばしかったけれど、僕はそんな話を訊くたびに、静かに笑って頷いてばかりいた。
「また男子に告白されたんだよねぇ♩」
「へぇ、今度は何部の誰だ?」
「なんかねぇ、サッカー部の藤谷って人ー♩」
「良い人なのか?」
「知らないけど、評判は良いみたいだよ♩」
「へぇ、そりゃ良かったじゃないか」
そう言った僕の語尾に『♫』はついていたのだろうか?
それは今でも分からない。
僕は時々、独りで夏芽の話し方を真似てみるのだけれど、僕の語尾につく音符は散々な不協和音がいいところだった。
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