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それから月日は流れ、夏芽に彼氏がいるのかも知らないまま、僕は大学3年生になった。
夏芽は相変わらず男子生徒に言い寄られていたし、部活動の影響か駅に着くのが夕方より遅くなることも往々にして増えた。
「わたしもう『JK』だからね?お兄ちゃん♫」
「『JK』は『迎えにきてよ』なんて電話するものなのか?」
「だって歩くの疲れるんだもん♫」
「僕だって試験勉強とかあるんだからな?」
「あー………そうなの?」
「まぁ迎えくらい大した負担じゃないけどさ」
「ふふっ、陰キャも大変なんだね♫」
「関係ないだろ」
夏芽はまだ、僕に迎えを頼む電話をかけていた。
初めてこの習慣がついたのは夏芽が私立中学に通い始めた頃だから、それが続いていたのはちょうど6年くらいだった。
6年。
僕は駅に行く道の最短ルートをもう完璧に覚えていたし、駅前のロータリーで最も夏芽が見つけやすい停車位置、夏芽が乗る電車の発着時刻、そんなものまで全て覚えてしまった。
駅を出て、ロータリーに向かって長い階段を下りてくる夏芽の姿を、僕は誰よりも見た。
✴︎
僕は決して忘れられない。
6年目の、ある夏のことだった。
夏芽はその日僕に電話をかけて言った。
「今日は迎え要らないから、お兄ちゃん♫」
「要らないのか?」
「うん♫だいじょーぶだいじょーぶ♫」
それがどうしてだったのかは分からない。
夏芽はとにかく、その日、僕に迎えを頼まなかった。
6年間で夏芽が迎えを頼まなかったことなどほとんどなかったから少し動揺した。かといってどうすることもできないので、僕は仕方なく試験勉強をしていた。
その帰り途、夏芽は襲われた。
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