迎えにきてよ

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場所は駅にほど近い雑木林の中だった。 たしかに家から駅の間には雑木林に近い道がある。そこは昼間でも薄暗くて気味が悪い、肝試しに使われそうな類の道だった。 近隣住民が『林の中から悲鳴が聞こえる』と通報し、駆けつけた警察が夏芽を保護した。 パトカーの音に気付いた犯人は逃げ出したが、電車の発着時刻から推測するに、夏芽は1時間ほど、犯人の男たちに襲われ続けていたということになる。 夏芽は病院で検査を受け、2日後に退院した。 警察関係者が神妙な面持ちで事件の概要を両親に告げていた。父は怒りを堪えて肩を震わせていたし、母はショックで泣いていた。 僕が何も言えないでいる中、夏芽だけが 「平気平気、生きてただけでラッキーだよ」 と言って、気丈に笑っていた。 『夏芽は強い子だ』『立派な娘さんだ』 そう言って、両親も警察関係者も涙した。 夏芽は照れ臭そうに笑って、隣の僕にピースサインを出した。 僕は困ってしまって、うまく笑い返せたか分からなかった。 僕だけが、夏芽の嘘に気付いていた。 ✴︎ 「お兄ちゃん、迎えにきてよ」 その電話は、それからも変わらずにあった。 夏芽をめぐる事件は学校の制度にも影響したらしく、夏芽が駅に着く電車が、2本ほど早まった。 学校が最終下校時刻を早めたらしかった。 「いやいやー、今日も疲れたよー♫」 「お疲れさん………学校は大丈夫か?」 「んんー?全然問題ないよ♫わたしを何だと思ってるの♫」 「『JK』だろ『JK』」 「そ♫向かうところ無敵の女子高生だよ♫」 「…………そりゃ素敵だな」 夏芽はとても明るい子だった。 事件のことは誰もが知っていたけれど、それでも気丈に振る舞う夏芽はさらに人気を集めたし、さらに美しくなったように見えた。 だが、事件から2ヶ月ほど経ったある日のこと。 なんの変哲もない木曜日に事態は急変した。 その予感を誰よりも早く得たのは、きっと、いや、間違いなく僕だったと思う。 その日も、夏芽からの電話がなかったのだ。
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