迎えにきてよ

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第一発見者は、駅のトイレ清掃員だった。 そのトイレ清掃員の女性は掃除をしようとしていると、内側から鍵がかけられているのに、ノックしても一切反応がない個室があることに気付いた。 清掃員はその個室も掃除したかったのでノックをしたが、なんの音沙汰もなかったそうだ。 仕方がないのでマスターキーを使ってそれを開けた。 すると、中から泡を吹いて気絶している夏芽が転がり出てきたという。 僕は勿論、その夏芽を直接見たわけではない。 だけど聞いた話では、夏芽はその綺麗な唇から黄色い泡を吹き、その美しい瞳は白眼を剥いて、僅かに痙攣しながら気を失っていたらしい。 原因は睡眠導入剤の大量服薬。 「命が助かったのは奇跡」と医師は言った。 睡眠導入剤は違法薬物や毒薬なんかでは当然ないが、夏芽が飲んだくらいの量を一気に服薬することはまずあり得ないと医師は続けた。 「これは自殺未遂だ」 その話を聞いた両親も僕も、医師すらもそう言うのを躊躇っていた。だけど全員がそれは自殺未遂だと知っていたし、何が夏芽をそんな行為に及ぶまでに追いやったのかも分かっていた。 夏芽は結局、精神病院に送られた。 診察ではない、入院のために。 精神病院に入院するというのはほとんど軟禁と同じだということを、僕は知っていた。 それはよく過激なゲームや漫画の題材にされるが、それが誇張表現ではないほど、そこは辛い場所なのだということも、僕は分かっていた。 「犯人は逃げてのうのうと生きているのに、夏芽は監禁されることになるのね…………」 食事中の母がぽつりと言った。 聞こえないふりをしようとした僕の横で、父がビールを盛大に溢した。 父の顔は完全に硬直していた。 「はははっ、おいおい何やってんだよ親父!」 僕は必死にそのビールをタオルで拭いた。 父は悪い悪いと言いながら濡れてしまったシャツを脱ぎ、居心地悪そうに僕に笑いかけた。 夏芽がいない食卓はひどく静かで、小さなトラブルが致命的なまでにその空気を破壊した。 僕がビールを拭き終わり、父がシャツを着替えて食卓に戻ったのはほとんど同時だった。 その間母だけがずっと、何も起こっていないかのような無表情で、素手でシチューを食べていた。
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