1人が本棚に入れています
本棚に追加
視線の先には永遠のようにどこまでも続く海。
水平線に向かって落ちる太陽の夕日が海面を黄金色に染め始めている。遠くで小さく揺れる波の連なりが夕日を反射し、魚の鱗のように波の一つ一つが煌びやかに輝いている。
財布から一葉の写真を取り出す。
それに映っているのは今、私が座っているお母さん岩だ。
しばらくここを離れていたので辛い時や悲しい時は、写真に納まったお母さん岩を見て自分を奮い立たせてきた。
今ではこの写真も色褪せてクシャクシャになっている。財布にいつも仕舞っていたからしょうがないか。それとも私の心の傷を吸い取ってくれていたのかもしれない。
私は慎重に端へ身を寄せると、写真を真下の海へ落とした。
写真は風に吹かれて崖を駆けるように舞った。右へ、左へ、崖にぶつかる度に下から唸り上げる風を受けて写真はクルクルと回った。幾度もそれを繰り返しながらも写真はヒラヒラと舞い下りていくと、やがて唸り猛る大波の中へと消えていく。あとは潮騒と濡れた岩石だけが辺りに残った。
私は写真に感謝の気持ちを込めて手を合わせた。
これからはいつでもお母さん岩に会えるから大丈夫。今までありがとう。
最初のコメントを投稿しよう!