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プロローグ
娯楽都市モンストロム、ウェストサイド。
ショウエリアとして分類されるその地区は、観客の心を捉え没入させる劇、異国の歌と踊りを交えたミュージカル、心躍らせるようなパフォーマンスなど、およそ全ての娯楽ショウが味わえる。
その日も朝から通りは観光客で賑わい、人気の劇場ではチケット販売前から行列ができるほどだった。
「……ふうん」
一人の少女が、壁に貼られたポスターを見て簡素な声を漏らす。周囲を探る眼差しには、お目当てのショウを探す時のような期待やわくわく感なんてものはちっとも含まれていなかった。
ポスターには、不気味なモンスターや派手な化粧などで仮装した人が描かれている。ファンタスティックな夢のひと時を貴方へ、と宣伝文句が記されたそれは、夜のパレードの案内だった。収穫祭までは、モンスターものの題材が主体の催しとなる予定らしい。
少女は、化け物──の着ぐるみの絵に肩を竦める。
「こんなの、いるわけないのに」
興味の失せたポスターをぽいっとゴミ箱に捨てて周囲を検分し続ける事数十分、ようやく足が止まる。
観光の花形である地区の隅っこに、その建物はあった。
観光客で賑わっている中、その周囲だけは忘れ去られたように人気がない。 開演時間が描かれたボードは、ろくに手入れされていないのか色あせている。
一応営業はしているらしく、入口近くには宣伝文句が添えられた古びたチラシが張り付けられていた。
『オールト一座のわくわくショウ』
『夢のようなひと時を貴方にお届け!』
『ただいまメンバー募集中。年齢、性別、人種は問いません』
チラシを確認した少女は、古びたドアに手をかけた。
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