一話

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一話

『オールト一座』の建物は、一階がステージ、二階が居住スペースとなっている。一番隅の部屋のカーテンを開けると、小窓から弱々しい日の光が狭い部屋を照らした。古そうなベッドが一つ、タンスが一つ。たったそれだけの、シンプルで狭い部屋だ。 「団長室を使ってくれてもいいんだよ?」 「いっいえ、いいです」  流石に初日から団長室を占領する度胸はなく、エルスはぶんぶんと首を横に振った。  それにしても、とオールトはエルスの手荷物をちらりと見やる。 「君、荷物少ないねえ」 「えーと、これでも色々詰め込んでますので!」  鞄一つをベッドの脇に置き、エルスはそう説明した。  空き部屋にしては、定期的に掃除されているのか割と綺麗だ。なにより、無料に勝るものはない。 (タダ宿もゲット、幸先いいわ!)  エルスは内心ガッツポーズをする。バイトが決まり、住処も提供してもらえ、大金ゲットの可能性もある。かなりいい流れではなかろうか。 「そんなにかしこまらなくてもいいからね。君は僕の孫って設定なんだし、ここの新団長だからね」 『偉いんだからねー』  敬語はいいんだよと告げるオールトの頭のてっぺんに絡み付くようにして、ラーナがいえーいと両側の葉っぱを天に向けてポーズをとる。 やっぱり初っ端からハードル高すぎたわと、エルスは早々に内心で前言撤回した。 (お金貯まったら、とっとと辞めよう……)  何しろこの新団長、ショウの事はろくに知らない。  しかも団員はちらっと顔合わせしただけではあるが、物語の中でしかお目にかかったことのない人外のモンスターばかりのようだ。 「ラーナってアルラウネ……えっと、植物のモンスターなんだっけ? 頭の上にいて大丈夫なの?」  水なしで平気なんだろうかと思い尋ねると、大丈夫―と元気そうな返答が返ってきた。 『髪と皮膚から、お水吸ってるからー』 「吸われすぎると乾燥肌になるから、気を付けてね」 「それ寄生じゃない!?」  自分の頭の上には絶対乗せないようにしよう、とエルスは決めた。
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