一話

5/22
前へ
/150ページ
次へ
 まあまあまあ、とオールトはシオの頭を撫でながら宥める。 「この子が新団長になっても、僕がいなくなるわけじゃないんだからね」 「んー……、でも知らないやつの言うこときいたらだめなんだぞ!」 「そう言わずに。エルスちゃんは、もう僕らの仲間だよ。君の後輩、妹分だからね」 「いもうと?」  ぴょこ、と犬耳が興味深そうに揺れた。畳みかけるようにオールトは頷いて続ける。 「そう、妹分。君は兄貴分として、この子を助けてあげるんだよ」 「あにき……!」  尻尾が嬉しそうにぶんぶん揺れた。エルスに向き直ると、さっきまでの喧嘩腰をあっさり取り払い、にかっと笑顔を浮かべる。 「なら、しかたないな! 兄貴分として、おまえを助けてやるぞ! おにいちゃんって呼んでいいからな!」 「え、やだ」  つい断ると、尻尾が悲しそうにしゅんと萎れた。ものすごく感情が分かりやすい。いやあよかったよかったとオールトが二人の肩を叩いて笑う。 「さっそく仲良くなれそうだね」 「これでいいの!?」 『いいのいいのー、シオは超単純だから』  近くの植木鉢に移動したラーナが、おめでとーと葉をぺちぺち鳴らす。  確かに協力してくれる仲間が一人くらいは欲しいとは思ったが、数分前まで全力拒否してきた相手である。  生首男に便乗する形だったから、実は本人はそこまでこちらを毛嫌いしてなかったのかもしれない。 「今日からおまえはおれの子分だ! よろしくな!」 「よ、よろしくー……」  なんで子分なのよこっちは団長よ、と言い返したくなるのを我慢して、エルスはひきつった笑みを浮かべた。  仲間を得るには、本音を隠すのも大事なのである。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加