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子供が新団長、という唐突なカミングアウトに来客は面食らったようだが、とりあえず話を進める事にしたらしい。
ソファに座ると、さっそく男は名刺を差し出してきた。
「俺は興行課のヨギリ・ロクトウです、こちらをどうぞ」
向かい合わせの形で同じくソファに座り、エルスは名刺を凝視するふりをしながら男を観察した。
(不思議な響きの名前……別の国の人なのかな?)
ヨギリ・ロクトーと、口に出さずに呟いてみる。この地方ではあまり見かけない黒髪と黒い瞳。遠い異国の血が混ざっているのだろう。しっかりした体躯の男性が真顔でいるだけで、何とも言えぬ圧迫感のようなものが感じられた。
ヨギリは続けて隣の女性をエルスに紹介してくれた。
「彼女は俺の部下でして」
「ザーリャ・スミルノワと申します」
控えめに女性が頭を下げる。薄桃色の髪を後ろで束ね、メガネの奥できらりと赤い眼差しが光る。スーツをきちんと着こなしているのもあり、大変知的な美女に見えた。
(二人とも真面目そう……スーツだから?)
ちらっと隣に視線を移すと、オールトは二人分の紅茶をのんびりと準備している所だった。カップの中に葉っぱは浮いていないので、普通の茶葉らしい。
窓際ではラーナが応援のつもりなのかくねくねと茎を動かして踊りつつ、偶に来客が窓へ視線を寄こすたびに、ただのお花のふりをしていた。
流石に最初から丸投げはせず、客人がお茶を飲んだあたりでオールトが口を開く。
「それで、用件はなんだろう。テナント代、まだだっけ?」
「ああ、そういえば滞納していましたね」
「えっ!?」
滞納、というのはつまり、お金を払っていないという意味だ。それってまずいんじゃとエルスが驚いていると、書類をめくり出したザーリャが口を挟む。
「ヨギリさん、ここは二か月後まで既に納金済みです」
「ん、そうだったか?」
部下から渡された書類にさっと目を通してから、ヨギリはなるほどと大きく頷く。書類を返すと、エルスの方へ向き直り笑顔を浮かべた。
「さて本題に入りましょう」
(何事もなかったかのようにスルーした!?)
厳格なタイプと思ったが、結構抜けた男らしい。
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