プロローグ

7/10
前へ
/150ページ
次へ
 子供が新団長、という唐突なカミングアウトに来客は面食らったようだが、とりあえず話を進める事にしたらしい。 ソファに座ると、さっそく男は名刺を差し出してきた。 「俺は興行課のヨギリ・ロクトウです、こちらをどうぞ」  向かい合わせの形で同じくソファに座り、エルスは名刺を凝視するふりをしながら男を観察した。 (不思議な響きの名前……別の国の人なのかな?)  ヨギリ・ロクトーと、口に出さずに呟いてみる。この地方ではあまり見かけない黒髪と黒い瞳。遠い異国の血が混ざっているのだろう。しっかりした体躯の男性が真顔でいるだけで、何とも言えぬ圧迫感のようなものが感じられた。  ヨギリは続けて隣の女性をエルスに紹介してくれた。 「彼女は俺の部下でして」 「ザーリャ・スミルノワと申します」  控えめに女性が頭を下げる。薄桃色の髪を後ろで束ね、メガネの奥できらりと赤い眼差しが光る。スーツをきちんと着こなしているのもあり、大変知的な美女に見えた。 (二人とも真面目そう……スーツだから?)  ちらっと隣に視線を移すと、オールトは二人分の紅茶をのんびりと準備している所だった。カップの中に葉っぱは浮いていないので、普通の茶葉らしい。   窓際ではラーナが応援のつもりなのかくねくねと茎を動かして踊りつつ、偶に来客が窓へ視線を寄こすたびに、ただのお花のふりをしていた。  流石に最初から丸投げはせず、客人がお茶を飲んだあたりでオールトが口を開く。 「それで、用件はなんだろう。テナント代、まだだっけ?」 「ああ、そういえば滞納していましたね」 「えっ!?」  滞納、というのはつまり、お金を払っていないという意味だ。それってまずいんじゃとエルスが驚いていると、書類をめくり出したザーリャが口を挟む。 「ヨギリさん、ここは二か月後まで既に納金済みです」 「ん、そうだったか?」  部下から渡された書類にさっと目を通してから、ヨギリはなるほどと大きく頷く。書類を返すと、エルスの方へ向き直り笑顔を浮かべた。 「さて本題に入りましょう」 (何事もなかったかのようにスルーした!?)  厳格なタイプと思ったが、結構抜けた男らしい。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加