プロローグ

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 ヨギリはポケットから折り目の付いたメモ帳を取り出し、内容を確認してから改めて切り出す。 「ええと……そうそう、『オールト一座』に立ち退き勧告が出ています」 「もっとマズいじゃないですか!?」 「まだ確定ではありません」  エルスがぎょっとして声を上げると、ザーリャが眼鏡をくいっと上げてから補足する。彼女は第一印象通りきっちりした性格のようだ。 「現市長クライヴ・トランジェット氏による、新たな取り組みでしてね。更なる娯楽都市の発展のためという名目ですが、上からすれば掃除と損切りが本命なんでしょう」 「こちらが定めた一定以上の収益を見込めていない所にお知らせしています」  ヨギリが言ってはいけなさそうな事も含めて説明する傍ら、詳しい内容が記された書類をザーリャが鞄から取り出す。オールトに渡してから、続けてエルスにも差し出してくれた。 (うわ、ほんとに立ち退き勧告って書いてる……)  エルスが顔を引きつらせながら書類に目を通している中、オールトはまずいねえと呑気な感想を上げた。 「君たちの言う通り、まだ決定じゃないんだよね?」 「ええ。期限は三か月後。それまでに頑張っていただければ」 「収穫祭か。確かに稼ぎ時だねえ」  娯楽都市では何度か大規模な祭りが開かれる。祭りとなれば観光客で賑わい、普段以上の売り上げも見込める。  挽回のチャンスはまだある、という事だ。
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