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そんなある日、優也さんが言った。
「麻弥ちゃん、顔を見ながら話したい」
「えっ?」
私たちは、当然、お互いの顔を知らない。
「ビデオ通話にしてもいいかな?」
でも、そんなことしたら、私が太ってることが分かってしまう。
私は、必死で断りの言い訳を探す。
「あ、あの、うち、今、Wi-Fiの調子が悪くて、すぐに切れちゃうんです。だから、いつもギガが足りなくて……」
これは、高校の友達がこの間言ってた悩み。
そのまま拝借して言い訳にした。
「そっか。じゃあ、ダメだよな」
そう言う優也さんは、とても残念そう。
「じゃあ、写真だけでも送って。俺も送るから」
そこで嫌だとは言えなくて、私は、
「う、うん」
と返事をしてしまった。
どうしよう。
写真なんて送れない。
そう思っていると、通話を終えた後、すぐに優也さんから、自撮り画像が届いた。
かっこいい……
やや色白で細面の彼は、こちらを見て優しく微笑んでいる。
こんな人に私の写真なんて絶対送れない。
私は、画像加工アプリを使って写真を撮ると、これでもかっていうくらい加工しまくった。
全体的に細くして、美肌にして、目を大きくして……
こんな元の面影がほとんどない写真を私だと偽って送るのは、間違ってるって分かってる。
それでも、この幸せな時間を少しでも長く続けるために、私は嘘をつくことを選んだ。
私が写真を送ると、すぐに返信が届いた。
『麻弥ちゃん、想像した通り、すっごくかわいいね』
ほんとはかわいくないんだけど……
『いえ、私なんか全然かわいくありませんよ』
謙遜した風を装って否定してみる。
けれど、写真を交換した割には、その後、一切ルックスに関する話題が会話に上ることはなかった。
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