106人が本棚に入れています
本棚に追加
それからしばらくして、うちからほど近い美術館で、私たちの大好きなイラストレーターさんの個展が開かれることが決まった。
「俺、そっちまで行くから、一緒に行こ?」
優也さんには会いたい。
でも、会ったら、この関係が終わってしまう。
どうしよう……
「来月、3日の日曜日はどう? 何か、予定ある?」
予定は……
「ありませんけど……」
でも、会えない。
「じゃ、決まり。11時に美術館の入り口で待ち合わせでいいよね」
私が断りの言い訳を思い付かないでいる間に、話はどんどん決まっていく。
私の中でも、優也さんに会いたい気持ちと、会いたくない気持ちがせめぎ合っていて、はっきりと断る踏ん切りがつかない。
そうしているうちに、約束の3日になった。
私は、この半月、精一杯のダイエットをしたけれど、減ったのはわずか3キロ。
見た目はほとんど変わらない。
それでも、少しでもかわいく見えるように、おしゃれをして、生まれて初めてメイクもしてみた。
だけど、鏡に映る姿は、あの写真とは似ても似つかない。
私は、葛藤しながらも5分前に美術館の正門にやってきた。
でも、そこから中に入る勇気が出ない。
門の陰から覗くと、美術館の入り口に立つ背の高い男性の姿が目に入った。
遠目に見ても、あれが優也さんだろうということは分かる。
分かるけれど、それ以上、中に入ることができない。
どうしよう……
断りの連絡をする?
でも、なんて?
体調が悪いことにする?
今さら?
わざわざ新幹線でこんな遠くまで来てくれたのに、こんなギリギリの時間に?
私は、なかなか決断出来ずに、門の陰から、優也さんを眺めた。
やっぱり、かっこいい……
これで最後なのを覚悟して会いに行ってみる?
でも、どうせ最後にするなら、会わずに綺麗に終わった方がいい?
いろんな思いが駆け巡って、なかなか決断できない。
そうしているうちに、時間はどんどん過ぎて、約束の時間を10分ほど回ってしまった。
入り口に立つ優也さんが、スマホを手にするのが見えた。
あ、私に連絡する気だ。
ここで電話が鳴ったら、見つかっちゃう。
私は、慌ててスマホを取り出すと、マナーモードにした。
その直後、私のスマホが手の中で、鳴動を始める。
間に合って良かった。
私は、その振動するスマホを握り締めながら、ほっと胸を撫で下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!