会いたいけど、会いたくない

5/7
前へ
/7ページ
次へ
私は、門を背に空を見上げる。 もう、帰ろうかな…… 言い訳なんていらない。 どうせ終わるなら『やっぱり行けません』って送るだけで十分じゃない。 私は、握り締めた手を開き、スマホの通信アプリを起動する。 彼の着信履歴を見て、メッセージを入力しようとすると、またスマホが鳴動を始めた。 これ、出る? それとも、拒否して、メッセージを入れる? 一瞬ためらっていると、ふと影が差した。 えっ? 私が顔を上げると、そこには優也さんが立っている。 「麻弥ちゃん……だよね?  ごめん、待ち合わせ場所、勘違いしてたみたいで」 えっ? 私って分かるの? いや、それより、これ、肯定するべき? 違いますって言って逃げるべき? 私がすぐに答えられずにいると、優也さんは、優しく微笑んで、手を差し出した。 「はじめまして。西崎 優也(にしざき ゆうや)です」 これ、握手ってこと? 私は、固まったままその手を眺めた。 すると、優也さんは、私の手をスマホごと、そっと包み込んだ。 「やっと会えた」 私の太ってぷにぷにとした手を握り締めながら、優也さんは変わらず微笑んでいる。 「さ、麻弥ちゃん、行こう」 そのまま私の手を引いて歩き出す優也さんに、私は足をもつれさせながらも、慌ててついていく。 優也さんは、入場券売り場を素通りして、そのまま入り口に向かうと、ポケットからチケットを2枚取り出した。 「早く着き過ぎたから、買っておいたんだ」 当然のように私の分のチケットを出すから、私は慌ててバッグから財布を取り出す。 「あの、私の分……」 すると、優也さんは、足を止めて私の顔を覗き込む。 えっ、何? 「やっと、しゃべってくれた」 えっ? 「美術館の中ではしゃべれないけど、見終わったら、食事に行こう。話したいことがたくさんあるんだ」 えっと、それは…… っていうか、私のチケット代…… 見つめられて恥ずかしくなった私は、そのまま顔を伏せて財布の中身を探る。 すると、優也さんは、そっと私の手を押さえた。 「これくらい、出させて。学生料金のチケット代くらい大したことないから」 そう……かもしれないけど…… 「ほら、行こ?」 そう促されると、それ以上、お金を出すとも言えなくて、私は財布をバッグにしまった。 優也さんに手を引かれて、大好きなイラストレーターさんのあたたかみのある絵を見て回る。 「これ、いいよね」 優也さんが耳元でひそっと囁く。 私はこくりとうなずくことしかできない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加