第27話

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第27話

「お待たせ!」  仕事を終えてきた伊織は、先ほど購入した金魚鉢を持ってくれている。カートに乗せて、夕飯の買い出しをすることにした。 「みちるさん、今お家の冷蔵庫になにがあるの? この間はあんまり食材がなかったけど」 「料理しないのよ。家で食べる時のおかずはお総菜コーナーで買っちゃうの。外食か出来合いのものが多いの」  仕事を言い訳に、苦手な料理はしていない。幻滅するかと思っていると「俺に任せて!」と言われててしまった。 「大丈夫! 俺が美味しいの作るから。こう見えて親元離れて長いし、生活力が高いんだ」 「ご家族は、お仕事が忙しいの?」  そんなところ、と伊織はほほ笑みながら白菜を握る。 「みちるさん、お鍋なんてどう? 一人じゃあんまり食べないでしょ?」 「わ、食べたい!」 「豆乳鍋にしよっか。好きな野菜は?」  伊織の提案に上機嫌になってしまい、春菊を手に取る。伊織に可愛いと微笑まれてしまい、彼にうまくのせられていないかと心配になった。 「伊織くん、今日は泊って行くとか……?」 「今日は帰るよ。側にいてほしいって言うならまた添い寝するけど」  みちるはダメダメ、と手を大きく横に振る。 「みちるさんが嫌がることはしない。でも、みちるさんが望むことはなんでもするよ」  甘い言葉だ。  蜂蜜のようにとろりとした甘い響きが、みちるの心をくすぐる。伊織の可愛らしくも美しい容姿も相まって、うっかりしていると骨抜きにされてしまうんじゃないかと危惧する。  ここは、年上としてしっかりしなくては。 「伊織くん。そのモテ技術は私じゃなくて、好きな人に使うべきよ」 「俺、みちるさんにしか興味ないよ」  一秒前にしっかりしなくちゃと思っていたのに、瞬殺されそうだ。 「なに言ってるのよ。伊織くんなら選びたい放題でしょ」  傷心のアラサー女子に興味が湧いているだけだ。そうでなければ、みちるのような歳上に懐くわけがない。 「あのね、みちるさん勘違いしているみたいだけど」  伊織が珍しく真剣な顔をして、みちるを見つめた。真顔になると、怒っているかのようにさえ見える整った顔立ちだ。通った鼻筋に、涼やかな目元が美しい。 「俺、本当にみちるさんにしか興味ないよ。信じて」 「……なんで? なんで私なの?」  それに伊織は目をほんの少し細めた。 「動物たちと一緒にいるとわかるんだ。前も言ったけど……みちるさんは、俺にとって最高の女性だよ」 「まだ、出会って間もないのに最高もなにもないと思うんだけど」 「ロマンティストだからね、俺」  腑に落ちないでいると、伊織は豆苗に手を伸ばした。 「豆苗も栄養たくさんあるから入れよう。出来合いのものばかり食べてると身体によくないよ。今日は、栄養たっぷりとろうね」  伊織の笑顔にほだされて、みちるは苦笑いをする。そうね、と呟いて野菜コーナーから遠ざかった。 「いっぱい栄養とらなくちゃ。直登も帰ってくるし」  無意識に呟いていると、伊織がほんの少しだけ驚いたような顔をして振り返った。
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