第33話

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第33話

「もうさ、付き合って十年以上たつのな、俺たち」  真由子に教わった創作和食のお店へ行き、軽めの日本酒を頼んで乾杯をしていると、直登がしみじみと呟いた。  十年と言われて、みちるは心臓がぐわんと鷲掴みにされた気持ちになる。  とうとう結婚の話でもされるのかと身構えたのだが、直登は遠い目をして、口元に笑みを乗せていた。 「なんだかんだ、長かったようで短いんだよな。みちると居るとさ」 「なにその言いかた。おじいちゃんみたい」 「なんだよおじいちゃんって。まだ三十手前だぞ」 「このままじゃあっという間よ」  そうだな、と直登は諦めたように深く息を吐いた。 「時間だけは、全人類にとって平等だもんな。それには逆らえないし、この仕事もいつまでやってられるかって思う時あるよ。年取ったな」 「やだやだ、そんな枯れていくような会話しないで」 「みちるももう、女子高生のスカートなんて履けないだろ?」  みちるのことをきれいすぎてびっくりした、と言ってくれた伊織の顔が頭をよぎる。 (なんで、伊織くんのことを……直登と一緒なんだから、集中しなくっちゃ) 「体力に自信はあるけど、さすがに行ったり来たりが続くとキツイ。俺さぁ、身体大きいから、ビジネスでもちょっと狭くて」  みちるは納得した。直登が狭い機内の椅子で縮こまって座っている姿は、想像するだけで笑えてしまった。 「なに笑ってんだよ?」 「座席で居心地悪そうにしている直登を想像したら、おかしくなっちゃって」 「おいおい、笑いごとじゃないんだぞ。本当につらいんだから」  直登は瞳をめいっぱい広げながら、仕事のことや機内でのハプニングなど、色々なことを話してくれる。みちるも、電話やメールでは言えなかった出来事を話す。  時間が絶対的に足りなかった。それはもう、確実に。  久々に会えば話が弾んでいるように思えたが、おそらく他人が聞けば、半年間の出来事の確認作業をしているように聞こえたかもしれない。  日本では考えられないような出来事ばかりで、聞いているだけで楽しい気持ちになる。直登は淡々と話すので、それがかえってリアルで、みちるは幾度となく「え!?」と反応してしまっていた。 「……おっと、ちょっとごめん。トイレ行ってくるわ」 「突き当りって看板があったよ」 「サンキュー。さすが、みちる」  みちるがほほ笑むと、直登は立ち上がって席を外した。 「……やっぱり、直登といると落ち着くなぁ」  会うまではドキドキするが、あったあとはすとんと気持ちが落ち着く。一緒にいれば安心できて、それはみちるを満たしていく。 「もうちょっと話したいし、追加しようかな」  メニューを見ようとしたのだが、向かいの直登側のテーブルの隅に置きっぱなしになっている。  それに手を伸ばすと、近くに置いてあった直登の携帯電話のディスプレイがみちるの手に反応して明るくなる。  ホーム画面に、メッセージの内容が表示されていた。  見てはいけないとわかっているものの、気になってしまって画面へ視線を伸ばした。 「見ちゃダメって言われると、見たくなるものよね人間って」  直登宛てに来ていたメッセージを目の端で見て、みちるは絶句した。
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