第38話

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第38話

 伊織と温かいお茶を飲みながら、このあとどうするかを考える。みちるはピンとひらめいた。  テレビの横から取り出したのは、B級ホラー映画だ。みちるはホラーが大好きなのだが、直登は苦手だ。なので、一緒に観ようと言い出せない。 「これ、これ観たいの……まだ観れてなくて今から一緒にどう?」 「なにそれ、B級映画? みちるさんも、趣味悪いなあ」 「怖いの平気?」  くすくすと笑いながら、伊織はみちるの趣味に付き合う気満々らしく、ソファに座り込んだ。 「全然大丈夫ですよ。ホラーより怖いもの知っているから」 「なにそれ。そっちのほうが怖いってば」 「あはは。とにかく大丈夫だから観よう」 「趣味が悪くて申し訳ございませんでした」  みちるが拗ねると、伊織はうんうんと頷く。 「男の趣味も悪いよね」  みちるは肩をすくめる。 「俺を選んでおけばいいのに」 「伊織くんはペットでしょ?」 「飼う気になった?」 「ぜーんぜん。電気消してくるね」  ちぇ、と伊織が唇を尖らせるのを見てから、みちるは電気を消した。ソファに座りながら、日本中がゾンビだらけになってしまうのを見た。  思っていた以上のB級映画で、雑な作りが逆にどこか恐ろしさを引き立たせる。  みちるはクッションに何度も顔をうずめつつ、「ひえー」「グロっ」「うわ!」と声を発する。  そのうち身体が冷えてきてしまい、ブランケットを持ってくる。伊織と半分こして膝にかけた。  一枚しかなかったので、それをシェアすると身体が必然的にくっつく。ホラー映画のドキドキと相まって、心臓がいつもよりも血液を多く流しているような気がした。  半身から伝わる伊織の温もりは温かい。心地よさに目をつぶりたくなったところで、映画が終わった。 「意外と面白かったね、この映画」 「私の趣味は悪くなかったわね、結論としては」 「あはは、確かに」  電気をつけると、伊織は「眩しい!」と目を細めながら時計を見つめた。  時刻は午前0時を回っている。こんな夜更けに帰宅させるわけにもいかず、泊って行くか相談しようとしたところ、先手を打たれた。 「みちるさん、いたいけな大学生をホラー映画につき合わせたんだから、ちゃんと落とし前付けてよね。今夜泊まっていい?」 「それを提案しようとしていたところよ。さすがに遅すぎるものね。嫌じゃなかったら泊って。今お風呂ためるから」 「嫌なわけないじゃん。嬉しいよ、みちるさんありがとう!」  風呂を溜めに行こうとするみちるに、後ろから伊織が飛びつく。みちるは驚いて体勢を崩したが、伊織に支えられて寄りかかる形で転ばずに済んだ。 「お背中流してあげよっか? 頭も洗ってあげるよ」 「大丈夫、そこまではしてくれなくていいから」 「だって、彼氏となにかあって傷心中なんでしょう? つけ入れさせてよ」  ダメ、とみちるは伊織を引っぺがして風呂を溜めに行った。給湯器のボタンを押しながら、みちるは熱くなっていた顔を擦る。 「つけ入れないで、これ以上は……本当に」  気持ちが揺らぐから、とみちるは独り言ちた。
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