第51話

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第51話

「みちるさんは、俺のこと好き?」  蘭とお茶をした日の夜。  急に伊織がそんなことを口走り始めた。 「どうして……?」 「答えてよ、ねえ」  みちるの膝枕で気持ちよさそうにしていたのに「答えてくれないと」と半身を起こして伊織が覗き込んでくる。 「そんなこと聞かれても……お料理上手だし、掃除も洗濯もできて、正直すごく助かっているけど」 「そうじゃなくて、好きかどうか聞いてるの」  口を尖らせる姿がかわいらしい。黄味の強い瞳は不思議な魅力を持っていて、吸い込まれそうになってしまう。 「それ、言わないとダメ?」 「言わないと、キスしちゃうよ」  言い終わらないうちに、伊織の唇がみちるの唇に軽く触れて離れていく。 「次はもっとちゃんとしたやつする。言わないなら、大人のキスしてみちるさんを困らせちゃう」  いつの間に手首まで掴まれて迫られている。みちるが言葉を詰まらせているうちに、ずるずるとソファに押し倒されてしまった。  可愛い見た目に反して、力の強さは男性そのものだ。 「言わないの? 言えない?」  唇が押し当てられそうになる。 「ねえ、みちるさん。このままイケナイことしちゃう? 俺にとってはすごく嬉しいご褒美になるけど」 「言う、言うから!」  慌てると、伊織は満足そうに離れていった。みちるは身体を起こす。 「……好きだけど」 「けど? 彼氏に罪悪感?」 「そう。でも、伊織くんのことは好き」 「それは、ペットとして? それとも男として?」 「ペットとして」  顔が熱くなってくる。 「ペットにそんな顔していいの、ご主人様?」  横から伊織がくっついてくる。顔が近づいてきて、キスされると思って身構えたのだが、みちるのほほにちゅっと唇をくっつけると、伊織はクスクス笑い始めた。  みちるの反応を見て伊織は大満足らしい。 「男として好きって言われていたら、俺はたぶん抑えられなかったと思う」 「なんで自分の首絞めるような質問するのよ」 「みちるさんは俺のこと好きになってもらいたいから。俺ばっかり好きなのは、フェアじゃないしね」 「ペットでいいって言ったの伊織くんじゃない」 「知らないの? ペットとご主人様は、対等な関係だよ?」  だからこんなことだってしていいんだよ、と今度は本気で唇を奪われた。  止めてと伸ばした手首はつかまれ、気がつけば全身の血が沸騰するかのような感覚が押し寄せてくる。 「みちるさんのその顔好き」 「やめて、本当に……これ以上は」 「今日のご褒美もらってないから、まだダメ」  押しやろうとしたが無理だった。理性が飛ぶカウントダウンがされる寸前で、伊織はやっと唇を放す。 「明日もたくさんご褒美ちょうだいね、みちるさん」 「もうあげない!」  みちるはそこにあったクッションを伊織に投げつけたが、あははと笑いながら、よけられてしまった。
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