第3話

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第3話

 寂しさを感じてはいない。でも、ペットがいれば、今の生活が満たされるかもしれない。  モールの一番端っこに、ペットエリアがあった。今まで生活用品にしか目がいかなかったのだが、よく見れば、トリミングもペットホテルもあるようだ。 「我ながら盲目すぎる……生き物に興味が無いと、こうも意識がいかないとは」  みちるは自分の視野の狭さにげっそりしながら、犬猫の食べ物がずらりと並んだ陳列棚を見て驚いた。 「びっくり。最近って、こんなに種類あるの……?」  棚数列に渡って、おやつや主食、さらにはトイレ用品におもちゃまで、ずらりと並べられている。物珍しそうにそれらを見つめていると、キャンキャンと吠える甲高い声が聞こえた。  見れば、棚の奥にガラス張りのエリアがあって、そこで大人しく小型犬が毛をバリカンで刈られている。しょんぼりとした目つきが可愛らしくて、思わず近寄って見てみるとばっちり目があった。 「犬もかわいいなあ……」  トリミング施設の隣には、子犬と子猫が仕切られたケースの中で愛らしい姿を見せている。  のんびり寝ている子もいれば、遊びたくて盛んに吠えている子もいる。ぬいぐるみを齧っている姿もあれば、落ち着きなくうろうろしている子もいる。 「この子たちには、どういう風に世界が見えているんだろう……?」  ショーウィンドウの内側をデザインする。そこには、人の希望や夢やニーズを詰め込む。美しさと繊細さ、センスが問われる仕事だ。  ぼうっと彼らを見ていたのだが、果たしてこの子たちを自分が飼えるのかと考えると、不安になってきた。  今住んでいるマンションが、ペット可だったか、不可だったかさえ覚えていない。気になって自宅マンションの情報を住宅情報サイトで確認すると、犬猫はダメだけれど鳴かない生き物なら大丈夫ということだった。 「じゃあ、この子たちとはご縁がないわけね」  可愛らしい顔をした犬を、ちょっと惜しいなと思いながら見つめて、みちるはディスプレイを抜けた。 「鳴かないって、どんな生き物がいるんだろう?」  ペットについては無知だ。実家でも飼っていたのは金魚くらいで、それ以外の生き物と触れ合うのは動物園しかなかった。  犬猫のガラスケースの横を奥まで進むと、小動物エリアがあった。入ろうとしたところで、中に人がいたので躊躇った。  よく見れば、黒いエプロンをしているから店員のようだ。クリップボードに挟まれた紙に鉛筆で何かを記入しながら、小動物たちの様子を見ていた。  みちるの視線に気がつき、店員が振り返った。驚いたのは、その青年がずいぶんきれいな顔をしていたことと、とても若かったからだ。  引き戸にかけた手を引っ込めるくらいの、正統派な顔立ち。幅が狭い二重の瞳が、みちるをじいっと見つめた。  一瞬、気を取られた。帰ろうとするアクションが遅れたため、青年が引き戸を開けて出てきた。 「こんにちは。中、見て行きますか?」  彼がしゃがんでいたので気がつかなかったが、ヒールを履いて背が高くなったみちるよりも、頭一つ分は背が高い。少し低めの声が、みちるの耳をかすめていく。 「あ……いえ……」 「大丈夫ですよ、どうぞ」  にこりとほほ笑まれてしまい、あいまいに頷く。ここで断るのも変な感じなので、小部屋の中に足を踏み入れた。
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