第65話

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第65話

 なだれ込むようにベッドへ入ると、ゆっくりと唇が触れ合う。いたずらみたいなキスは、まるで学生同士の遊びのようだ。  そうしてじゃれてから、抱きしめ合ってちょっぴり大人のキスをした。  みちるが嫌がることはしないと言った通り、伊織は様子を確かめながら、ゆっくりと唇を重ねる。  深まる口づけに吐息が交じり合った頃、伊織はみちるをきつく抱きしめた。 「みちるさんは、この続きしたい?」  それはやっぱりダメだと思う。それをしたら、自分も直登と同じになってしまう。 「したいけど……ダメだって思っているわ」 「うん、俺も。これ以上続けたら、止まらない気がする」  そうなったらみちるさんが傷つくね、と言われて切なくて伊織の首にぎゅっと腕を回した。 「ちょっとだけ悪いことしない、みちるさん? 全部俺のせいにしていいよ。みちるさんは悪くなくて、傷ついたところにつけこんだ俺が悪いから」 「同罪だってば……それしたら、直登だけを責められない」  そうだけど、と伊織は大学生とは思えない艶やかな笑顔になる。思わず見入ってしまいそうなその艶美さに、みちるはカッと熱くなった。 「そうだけどさ、今日だけ悪いことしよ?」  ね、と言われてなんだろうと思っていると、伊織はスウェットの上を脱いだ。細身なのに、筋肉がしっかりとついた上半身が見えて、思わず目を逸らしてしまう。 「みちるさんも」 「え、なに……?」  みちるのパジャマをボタンを伊織はさっさと外していく。止めさせようとしたのだが「寒いから、早く」と言われてうやむやに引っぺがされた。 「ちょっと伊織くん、さすがにまずいって」 「うん。知ってる」  知ってるなら止めないとと言ったのだが、あっという間に上をぬがされてしまう。 「待って、待って!」  そのまま後ろから抱きしめられて、素肌が触れ合う温もりに心臓が破裂しそうになった。 「なにもしないから、くっついて寝ようよみちるさん」  こっち向いてと言われて、散々ためらった後に伊織の方を向く。ぎゅっと抱きしめられると、触れた素肌が温かくて心地良い。 「気持ちいいみちるさん? お肌すべすべだね」  背中を撫でられて、みちるは思わず悲鳴を上げた。 「ちょっと伊織くん! なにもしないって言ったじゃん!」 「そんな顔しないでよ……もう寝よう。くっついていないと冷えちゃうからね」  苦しいくらいに抱きしめられてから、体勢を整えて寝た。伊織はずっと頭を撫でてくれて、みちるの瞼はすぐに重たくなった。 「おやすみ、みちるさん」  ゆっくり寝ようね。伊織がつぶやくころには、安心しきって寝てしまっていた。 「よく頑張りました」  伊織はみちるの頭にキスを落とすと、目を閉じた。
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