第67話

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第67話

「え、なにそれ超やばい!」 「蘭! 静かにしてってば!」  昨晩のことを打ち明けると、蘭は机を叩いて立ち上がる勢いだ。大きな目をさらに開いて、あまりのことに口が半開きのまま塞がっていない。 「うっわ、策士だわその子。やるわねぇ、その手の焦らしはキッツいわー。しかも超絶イケメンときたら、もうダメだこりゃ」 「心の声だだ洩れみたいな感想やめて、恥ずかしいってば!」  両手で顔を覆って、恥ずかしさと後悔と色々とで複雑怪奇な表情をしているみちるを前に、蘭は興奮気味に冷たいコーヒーを気持ちよく吸い上げた。 「一線を越えていない、その絶妙な感じがまた、ねぇ……」 「ほんと、なに考えてるんだろ。伊織くんもそうだけど、私もさ。こんなに振り回されて」 「楽しむくらいの余裕がないと、それはキッツイわね。っていっても彼氏もいるんだし楽しめな……そうだ、忘れてたけど彼氏とはどうだったのよ?」  保留にしてあると伝えると、蘭はちょっぴりむっとしたあとで笑顔になった。 「まあ、別れないでって言われて、うんって言わなかったから及第点かな。よくできました」 「あはは、ありがとう。褒められるとは思わなかったな」 「うんって言ってたら怒っていたけどさ。でも気持ち的には冷めているんでしょう?」 「そりゃあ……だけど、情ってなかなか」 「あー、わかるわかる。わかりすぎてけっこうつらいぞ、私も。しかもみちるの場合ずっと彼氏一筋だったから、恋愛が青春止まりしているっていうか」  それにみちるは激しく同意してうなずく。 「十代の恋愛って、引きずることも多いじゃない? みちるはその延長線上にいて、さらに悪いことに歳月が邪魔をするし、凝り固まった情ほど、やっかいなものはないわね」  ズバズバ言われて、みちるはため息と苦笑いしかできない。 「年下くんが本気だって言っても、さすがに学生だとこっちの気が引けるし。若さゆえの猪突猛進にやられて落ちちゃったあとで、冷めた時にポイってされたら最悪だしね」 「伊織くんは、熱しやすく冷めやすいっていうタイプじゃなさそうだけど。いざ恋人になったてから、同年代の子が良かったとか、話が合わないとか言われたら、結果傷つくのは私だし」  伊織に対しての一歩。その一歩がどうしても踏み出せない。  年下の男の子にもてあそばれて、飽きたら捨てられるとなったら、非常にいたたまれない。 「……でも、恋人になったらって思うってことは、アリかもって思ってるってことよね」  言われてやっと、自分の中で恋人としての伊織という選択肢が芽生え始めていることに気づく。  どうしたもんかねー、と蘭は物思いにふけるような顔をしながら、携帯電話を気だるげに見つめた。  そしてから、ひらめいたというようにみちるを見つめてくる。 「蘭、なにその顔。なにか企んでる?」 「うん、大当たり」  じゃーん、と言いながら見せられた携帯電話の画面の文字に、みちるは思わず目をぱちくりしてしまった。 「バレンタインお見合い?」 「後輩に誘われたんだけどさ、私彼氏いるし。でも二人じゃないと登録できないからって言われて、仕方なくね。みちる、これ行ってみたら?」 「はい?」  今度こそ、みちるは素っ頓狂な声を上げた。
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