第68話

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第68話

 パーティーの詳細が掲載されているホームページのリンクと、参加者用のコードまで転送してくれた。  セミカジュアルな婚活パーティーだという事で、みちるはもちろん断ったのだが、蘭は気分転換にと言って引かない。 「そんな簡単にキャンセルしてもいいの?」 「もう行ったのよ、クリスマス前に後輩と。後輩は無事に彼氏ができて、私はこのサイトの解約忘れていたわけで」  なるほど、とみちるは納得する。 「人が入れ替わっちゃって大丈夫なの?」 「大丈夫よ、このコードがあれば参加できるから。参加費、私がご馳走してあげるから行ってみたらいいじゃない。結構ハイスペックな人いたよ」 「でも」 「いいじゃんいいじゃん。社会勉強ってことで。それにさ、このホテルは式場もあるし、中のショッピングモールがオシャレで有名だよ。ディスプレイもかわいいの多いし、参考になるんじゃない?」  見れば、巷ではけっこう評判のいいホテルだ。オシャレで料理もおいしいと口コミサイトでも人気がある。 「ブッフェ食べ放題、飲み放題……いいんじゃない、それだけでも行く価値ありそう」 「確かに……蘭は行かなくて後悔しない?」  ぜーんぜん、と言われて、そのあまりの執着のなさにみちるは笑った。 「これは、浮気でもなんでもないでしょ。結婚を考える年頃の女子として、パーティーに行くくらいは許されるべき……世の中のほかの独身男性見ておいでよ。比較対象がいれば、冷静に考えやすくなると思うように」  蘭の熱心さに折れて、みちるはうなずいた。彼女はノリノリでホテルのホームページを開くと、ブッフェの画像や中の様子の写真をみちるに見せた。  微妙な場所だったらやめようと思ったのだが、画像を見る限りではオシャレですぐさま行きたくなるような場所だった。 「よーし、じゃあ楽しんできてね! 彼氏に文句言われたら、この蘭ちゃんが完璧なフォローするから安心して!」 「ありがとう」  蘭と別れてから、パーティーの件は言っておくべきだよなと携帯電話を取り出して、やめた。帰ってから直接言わないと、変な誤解を招きかねない。  蘭のおかげもあって、気分は晴れた。婚活パーティーはまだそれほど乗り気ではないのだが、食わず嫌いは良くないと言い聞かせる。 「きっと、仕事に役に立つことが得られるはず」  嫌がらずに、仕事の視察として行けばいいのだ。そう思うと心が晴れた。  しかも、無料でホテルの食事まで食べられる。蘭に感謝こそすれど、文句を言うべきものではないと思えてきて、みちるはすこぶる上機嫌になった。  外回りから帰ってくると、鬼神モードが発動してあっという間に仕事を片付けることができた。  帰り際には上司もほっと胸をなでおろしていて、みちるは自分は案外ちょろいんじゃないかと心配になってくる。 (……人生を楽しめているってことにしておこう)  心なしか気分良く電車に乗ったところで、伊織からメッセージが来ていた。待っているのが寂しいのか、目をうるうるさせている犬のスタンプがついている。 「『みちるさん、早く帰って来てね』か……」  待っていてくれる人がいる事、温かい食事、それらに感謝する。胸がいっぱいになるような気持ちでワクワクしながら帰宅した。
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