第4話

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第4話

 一歩中に入った瞬間から、店内よりも暖かくて驚いた。 「気になる子がいたら、遠慮なく声かけて下さいね」  クリップボードに記入しながら、青年はみちるに向かってほほ笑んだ。まつげの密度が濃いのか、目元が大きく引き締まって見える。まつげに縁どられた瞳は、黄色味の強い明るい茶色だ。 「はい。ありがとうございます」  お礼をしてからみちるはまじまじと中を見つめた。  キョキョキョ、とインコたちが可愛らしく鳴いている。ケージを器用に嘴で齧りながら移動する姿が可愛らしい。  じっと見ていると、こちらに近寄ってくる。大きな声で鳴かれて驚いていると、横からすっと青年の腕が伸びてきた。 「ごめんなさい。この子ベタ慣れで、人が大好きで。お客さんが来ると、こうやってアピールしちゃうんです」  上の棚に置かれたケージに手を伸ばして、彼はインコに触れる。インコは嬉しそうに頭を下げて、目を閉じて気持ちよさそうに頭を撫でられていた。 「瞼が……」  みちるはびっくりして、思わず声を出した。青年はインコの頭から手を離す。インコはパチリと目を開けて、またもやクルルルと鳴いた。 「鳥たちは、瞼が下についています。不思議ですよね」  みちるは生まれて初めて鳥の生態を知って、ほんの少し恥ずかしくなった。 「気になる子、いました?」  邪気のない笑顔で訊ねられ、ちょっとだけ困った。自分はあまりにも無知すぎるとたった今知ったからだ。  寂しさが紛れるかもしれない。短絡的な考えで来店したのだけれど、安易な気持ちで飼うことはできないと悟った。 「迷っているんですね。ペット、飼いたいって思ったんですか?」  青年はみちるの様子からなにか感じ取ったらしい。 「まあ……仕事が忙しくて、家に帰った時にほっとできればいいなって」  素直に答えると、青年は嬉しそうに笑った。 「わかります。俺も一人暮らしですけど、家に帰って一人だと寂しいですよね。でも、こうやって家族が出迎えてくれたら嬉しい。俺のアパートはペット禁止だから飼えないですけど」  インコから手を離して、青年は別のケージへ視線を向ける。そこには別の種類のインコがいた。 「オカメインコも人気ですよ。このほっぺたが赤いのが可愛いですし、よく人に懐きます。言葉も覚えるし、歌ったりコミュニケーションを取ったりできます」  青年はほっぺたがチークで塗られているようなインコのケージに手を伸ばす。ぴょこぴょことやってきて、青年の指先をつついた。 「すごく可愛いです」 「でしょう。この子なんかもベタ慣れしていて……こんにちはとおはようは、すでに覚えています」 「へえ。しゃべるなんて可愛いですね」 「それから、『可愛い』も覚えています」  ニコッとほほ笑まれてしまい、まるで自分がほめられたような気になって、みちるは胸がドキンとした。 「動画もネットにいっぱい上がっていますよ」 「見てみます」  彼の笑顔のおかげか、帰ったらペットたちの動画を見る気になっていた。 「あとは、桜文鳥も人気です。飼い主のことを番いだと認めると、生涯その人にしか懐かないくらい。桜文鳥にハマる人は、もうずっと桜文鳥しか飼えなくなっちゃいます」  生まれたばかりです、と言われて見てみると、まだ気も生えそろっていないツルツルに近い鳥たちが身を寄せ合っていた。 「大きくなるんですか?」 「これくらいですよ」  手のこぶしを出されて、みちるはなるほど、と納得した。こぶしついでにネームプレートを見ると『望月』と書いてあった。
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