第5話

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第5話

「私ペット飼ったことなくて……」  恐る恐るみちるが聞くと、青年はへえ、という顔をした。冷やかしと思われたかもしれないと思っていると、首をかしげられる。 「お姉さん優しそうだから、てっきりたくさん飼っている人かと。初心者なら、飼いやすい子がいいですよね」  褒め言葉なのかリップサービスなのかわからないが、優しそうと言われたことにみちるは驚いた。  どちらかと言えば猫目で、見た目で優しそうと言われたことは、未だかつてないとも言える。  みちるはお化粧をばっちりすると、逆に怖そうに見られがちの、クール系だ。  少しでも柔らかい印象に見えるように努力したこともあったが、無駄だと気がついたので今はナチュラルにしている。  おかげで仕事ができる人と思われやすく、そこに関しては自分の容姿を認めている。だが、いかんせん可愛げがないと言われなくもなかった。 「どうしました? 俺、なんか変なこと言いました?」  ぽかんとしてしまったみちるに、青年が心配そうに眉根を寄せる。 「あ、いや……。優しそうって言われたことなくて」 「俺、動物のこと見てるからよくわかりますよ。このお客さんは優しそうだな、とか。このお客さんなら家族に迎え入れてもらった子は幸せだろうな、とか。だから、お世辞でもなんでもなくて、俺の本心です」  すっぱり言われてしまい、みちるは逆に恥ずかしくなってしまった。自分の顔が赤くなってしまっているのではないかと心配になって咳払いをする。  彼はちょっと、自分には刺激が強く感じる。  自然な様子に見えるように腕時計を見つめて、みちるは口を引き結んだ。 「すみません、もう行かなくちゃ。色々とありがとうございます」 「あ、忙しかったですよね。俺のほうこそ、いっぱいしゃべっちゃってごめんなさい」  青年は申し訳なさそうに眉根を寄せてからお辞儀をする。ふわりと柔らかそうな髪の毛が揺れて、甘い香りがした。  みちるは一歩下がると、入り口の扉に手をかける。もう一度お辞儀をして去ろうとすると、青年はにっこりと笑った。 「また来てください。俺、土日以外は夕方ほぼ毎日いるんで。ご相談があれば、気兼ねなく言って下さい」 「ありがとうございます」 「年下なんで、敬語使わなくていいですよ。俺は望月って言います。引きとめちゃったお詫びに、初心者向けのペットを調べ直しておきます。また明日来てください」  明日と言われてしまい、みちるは半分驚きつつもぺこりと頭を下げた。小動物スペースを後にし、来た道を戻っていく。 「あの子、明日来てくださいって……そんなこと言われたら、来なくちゃ悪い気がするじゃない」  ショッピングモールの入り口に到着すると、みちるは眉を寄せた。まんまとあの美青年に引っかかった気がする。しかし、人好きのする可愛らしい笑顔が憎めなくて、ため息を吐いた。  本当に、自分のために調べものをしてくれたとしたら……。 「まさかね。リップサービスよね」  今から明日は無理だと断りに行こうかと思ったのだが、若いしすぐに忘れる口約束だろうと思い帰宅した。
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