第83話

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第83話

 選手交代を期待していたのだが、平日の夜に急きょ合コンに参加できる友人はいなかったらしい。  結局真由子と二人でお店に行くことになった。  どう見ても人数合わせだと見えるであろうパンツスーツ姿だったが、真由子は気にせず感謝し続けてくれる。  おせっかいの極みだが、真由子には幸せな恋愛をして欲しいと思う。上司としてもそうだが、彼女の裏表のない性格は好きだ。 「先輩、途中で逃げないで下さいね」 「わかったわかった。でも相手も若い子なんでしょ?」 「年齢バラバラみたいですよ」  そんなことを言っていれば、お店に到着した。 「あーずいぶんとオシャレな……」  こんなお店を選んだという時点で、合コンの気合が入っているのがわかる。みちるは逃げ腰になったのだが真由子がにっこりと笑った。 「せーんぱい。逃げちゃダメですよ?」 「うっ……」  ゴリゴリの真由子に気圧されて、結局みちるはお店に入らざるを得なかった。代打すぎて申し訳ないと本当にしょんぼりしていると、真由子は気にせず楽しもうと言ってくれる。 「今村先輩、お仕事は超できるのに、恋愛下手そうですよね。あ、変な言いかたしてごめんなさい」 「いいの。本当のことだし……彼氏とはもう何年も形だけだし」  そこまで言ってからハッとした。あまりプライベートな話を会社でしていなかったので、気のゆるみを自分でも感じた。  真由子は「え?」と声を詰まらせた後に、肩をぎゅっと掴んでくる。 「先輩だってもう、付き合って結構長くて……結婚だってそろそろじゃ……」 「って言ってるのは周りだけで、浮気もされちゃったし」  そんな、と真由子は眉根を寄せる。可愛らしい見た目に反して、真由子はわりとさっぱりした性格だ。  そして、さばさばしているように見せかけて、胸やけがするくらい面倒なのは、みちるのほうだ。 「先輩、やっぱり今日楽しみましょう。いい人がいなくても、異性としゃべったら気分転換になるかもしれないし、逆に彼氏さんの良さが際立つかもしれないし。どっちにしても、ここお料理とお酒は美味しいんで!」  真由子の天真爛漫な笑顔にほっとしながら店内の予約席へ向かうと、もうすでに何人か集まっていた。  なるほど、ハイスペックとはまさにという感じの、パリッとしたスーツやカジュアルだが品のいいセミカジュアルな服装の若者がいた。  ちょっと年上に感じる人も、品よくまとめている。  対するみちるはいつものパンツスーツの上に、ヒールでもない。申し訳ない気持ちだったが、真由子がのぞき込んできた。 「大丈夫です、先輩は素で勝負できるくらい美人なんで」  言われてこのきつそうに見える釣り目のことかと苦笑いしつつも、年下に美人と言わせるほど気を使わせるのも申し訳ないのでグジグジ考えるのをやめた。  その時とつぜん、きれいだよと言ってくれる黄色味の強い蠱惑的な伊織の瞳を思い出す。  今頃どうしているかな、楽しんでいるかなと余計なおせっかいの気持ちになりながらも、みちるはせっかくなので楽しむことにした。
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