一田 結

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「これで最後だな」 「うん。ありがとう、一田くん」 やっと、最後の人まで名簿を書き終えた。 のびをする。 あー、疲れた。 もう、窓の外からは沈みかけた夕日が見える。 予想以上に時間食っちゃったな。 「あ!一田くん、お家大丈夫?」 「え?うち来るの?」 「え!?違っ、そんなわけないじゃん!」 驚いて私を見る一田君に、慌てて訂正する。 はっ、恥ずかしすぎる…! 「別に来てもいいけど」 「違うって!あの、大分遅くなっちゃったけど、お家の人、怒らない?」 私が早口でそう言うと、一田君は、ははっ、と笑った。 「なに、お前、俺の心配?それより、お前のうちは大丈夫なの?」 「え、あ…ど、どうだろう…」 お母さん、結構時間には厳しいからな。 ふっと顔を上げて一田くんを見ると、一田くんは口元をおさえて笑っていた。 「な、なんでそんなに笑うの?」 「いや。普通、自分の心配からするだろ」 本当、お前って優しいよな。 そう言って、一田くんはあったかく笑った。 その笑顔に、私の心が撃ち抜かれたのは言うまでもない。 全く、優しいのはどっちだよ…。 ―それから、私は気づかないうちに一田くんを目で追ってしまっていた。 それが恋だと気づくのに、三日もかからなかった。 でもその日から、田辺さんは私を目の仇にしてくる。 田辺さんは学年一の美少女にして、一田くんに恋をしている。その情報を手に入れたのは、毎日の点呼が鬼門になった日と同じくらいの時期だった。
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